あきのさとり




 窓から入る日差しが少しだけまろやかになったようで、

 窓から入る風が少しだけ涼やかさを含んでいるようで、

 窓から入るセミの大合唱が終盤をむかえているようで、


 気温が高いので昼は外出しないでください。

 テレビから時折流れてくる注意をなんともなしに取り入れながら、


 ああ、秋が近づいているな。

 まだまだ日光が痛いながらも、物悲しい空気をさとった。


 今年は夏が短いかもね。


 仏壇に供えていたお盆のお菓子を下げてから、一つだけ封を開ける。

 長細い団扇のお菓子。

 一枚には朝顔や桔梗、鬼灯の絵が描いていて、もう一枚は白紙の、二枚のもなかせんべいの間には薄い寒天が挟まっていた。

 ちょこんと出ているつまようじを落とさないように掴んで、食べてみる。

 サクッとした感触を期待していたけど、もなかはしっとりとしていた。


 これくらいなら、一袋食べられるかも。

 四枚という量とそこまで甘さがないお菓子をゆっくり、ゆっくり、口に入れては、咀嚼して、次に手を伸ばす。


 さすがに四枚ぜんぶ食べたら、口の中が甘ったるい。

 熱い緑茶が欲しい。



 

「食べても次の日に消化する夏が終わりを迎えようとしています」

「食べてもなかなか消化できない秋になろうとしています」


 これ以上食うなと言わんばかりに。

 菊やきゅうり、なす、とうもろこし、すいかを模した和三盆、落雁、寒天のお菓子をさっさと取り上げて行ってしまった家族に、緑茶をお願いと頼むと、動けと怒られてしまった。


 ああ、冷たき言葉に、怒りの形相。

 まだまだ彼のものは夏の真っ最中らしい。


「口ばっか動かしてないで身体を動かしな」

「へえへえ」


 寂しくなったお仏壇にポテトチップスを供えると、糖尿病になっちゃうでしょうと叱られたが、自然食品だから大丈夫だもんと返す。


「本当に口だけは達者でやんなる」

「誰に似たんだか」 


 ひひっと笑えば。

 秋をしのばせる笑みが返ってきた。







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