如雨露
蓮口。
小さな穴のたくさん開いたキャップ状の注ぎ口を如雨露に取り付けることができる。
蓮口は水流を弱めてシャワー状にし。
植物や土を傷めることを防ぐために使う。
もうどうしようもなくて。
憎しみや怒りで身体が爆発しそうになった時。
つい、手に取ったのは、両の手に乗せられるくらい小さくて、蓮口が取り付いている金属の如雨露。
その中に罵詈雑言をぶちまけた。
前は紙に書いていたのだが、口に手が追いつかなくて余計に苛ついたし、誰が居ようと関係ない。近所に響いたってかまわない。大声で叫んでやろうと思ったりもしたが、なけなしの理性がそれを阻んだので、この時の俺は咄嗟にこの方法を選んだのだと思う。
蓮口は流れを弱めて傷つけないようにする道具。
ならば、如雨露に溜め込ませた罵詈雑言も傷つけない言葉に変えてくれよ。
「莫迦かよ」
乾いた笑い声は、如雨露の中では湿気を含んで、くぐもっていた。
「莫迦か、」
花に水を注ぐように。
生に愛を注ぐように。
罵倒しながらも、如雨露を傾けることを止められなかった。
気づけば。
雫が落ちていた。
温かく、柔らかく、小さな雫が、手の甲に落ちていた。
傷ついた証か、
傷つけなかった証か、
傷つけるのを、少なくとも、おさえられた証か、
俺はもう少しだけ、如雨露を傾けて、注ぎ続けた。
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