指笛




 気温。

 湿度。

 天気。

 大気中の微細なゴミの量、種類。

 風の強弱、方向。

 地面の状態。

 己の体調、指の状態、食べたもの、気分。


 伝えたい、相手、


 掃いて捨てるほどある、一期一会。

 その中には、己が奏でる指笛も入っている。


 驕り、なのだろうか。

 口の端を上げてしまう指笛も、下げてしまう指笛も、すべてがすべて、ああ、もうこの音には出会えないのだろうと思うと、練習して巧く奏でようとする気が失せてしまう。

 ふと、時々、である。

 やはり、自然と口の端が上がる指笛を奏でたい。

 均一を望んでいるわけではない。

 ただ、その時々で、気分が高まるもの、休まるもの、

 伝えたいもの、である、



 

 楽器(気分)としての指笛。

 会話(言語)としての指笛。


 ほとんどが楽器としての指笛を奏で、時折、仲間に伝えたいことがある時には、会話としての指笛を奏でる。

 数少ない仲間だけにしかわからないが、仲間なら誰もがわかってしまうのが、難点と言えば、難点である。


 意識していれば、恥ずかしい想いを漏らすという失態は侵さないのだが。


 ふと、思考が離れた瞬間。

 思いがけずと言うべきか。

  

 楽器として奏でていたはずの指笛に、会話を乗せてしまうことが、なきにしもあらず。

 周りに仲間がいなければいいという話ではないのだ。

 厄介なことに、この指笛は、楽器はそうではないのだが、会話では、世界中どこでも届くという厄介なしろものなのだ。

 



「今日もきれいだねえ」

「そうか?」


 ひょんなことから知り合って以降、運命の赤い糸だか白い糸だかは知らないが、行く先々で出会ってしまうこいつが、仲間でなかったことがせめてもの救いであった。

 仲間から揶揄する指笛をかき消すように、俺は意識して会話としての指笛を奏でるのであった。







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