2020.8.
右手の薬指に咲く泡花
最初は黄色のミニトマト。
次は真っ赤な鬼灯の咢。
石鹸を泡立てて手を洗っている時にだけ。
出現する。
水で手を洗っている時は、なく。
液体石鹸を手のひらに乗せた時も、なく。
両手をこすり合わせて丁寧にあまねく泡立たせていたら。
忽然と。
同じ指の表に出現するのだ。
ミニトマトは親指の第一関節くらいの大きさ。
鬼灯の咢は指を閉じた片手くらいの大きさ。
食感は本物と同じ。
触るだけなら何ともないが、無理やり取ろうとするとその指に痛みが生じる。
水で流せばきれいさっぱりなくなっている。
この摩訶不思議な現象の一因は、なんとなく、思いつく。
元々私が加護していた子に悪魔が一目ぼれした事が起因である。
追っ払っても、追っ払っても、追っ払っても、しつこく言い寄ってくる悪魔に、流石の私も疲れ果てて、出張中の夫に愚痴ってしまったら、祈祷師である彼は大精霊を呼び寄せた。
大精霊である。
精神力、体力、魂力すべてが桁違いに消費する。
呼び寄せるだけで、すべてがミイラ化する寸前である。
大精霊であるのも、夫の力がそう強くないのも要因であるが、それだけではない。
「お母さん。夫の力を試さないでよ」
「何言ってんの。これでもすごーく加減してるのよ」
婿試しも、ミイラ化寸前の要因であったのだ。
夫には内緒であるが、私は大精霊である母と数多くいる夫の中の一人、人間との子であり、花の妖精候補者でもあった。
だから大精霊である母を呼び寄せなくてもと頭を抱えた。
私が加護する子と私を心配する夫の気持ちはすごく有り難いのだが、相手がすごく悪かった。
もっともっと加減してよと苦言を呈そうとしたら、母が先手を打ってきた。
「あなたこそ、我が子を守る為とは言え、好きだと告白してきた、ただの人間に手厳しすぎるんじゃないの?」
母のあまりの言い草に、私は目を吊り上げた。
ただの人間なんて、片腹痛い。
私が加護する我が子、可愛い天使に言い寄る人間など、悪魔にほかならない。
「おーかーあーさーまー」
ほら。懲りずにもう突撃してきた。
「ああもうほんとにしつこい」
「…ほどほどのしなさいよ」
それはこっちのセリフである。
今は鬼灯の花が右手の薬指に出現している。
鬼灯の花言葉の一つに、心の平安。
右手の薬指にも、心の安定や落ち着きという意味がある。
まだまだ、花妖精候補者であり、妻であり、母である私の心の平安は訪れそうにない。
鬼灯の実(ミニトマトだと思ったら違った)(花の妖精候補者なのにと母に叱られた)、咢、花と続いた今、次はどうなるのか。
きっと、母と夫と悪魔の行動次第である。
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