故郷の畳




 普段であれば、背の面は預けた事はあれど、腹の面はそうそうない

 しかし、そうそうであって、皆無ではない

 衝動的に欲する事がある

 この部屋に来れば尚の事、


 この時もそうである

 ふらふらと誘われるままに、掌を、膝を床につける

 その場独特の重力に逆らわず、流れるように床にうつ伏せになる

 前述まではほぼ無気力での行動下であったが、この状態下に陥れば、一瞬間、凄まじい気力が湧き上がってくる


 この形を変えない畳を抱きかかえるように、ぐっと身体を丸め込ませる

 思考の中だけ

 実際は、大を描くように四肢を投げ出したまま、しかし、畳の中に分け入らんとばかりに、グッと全身に力を入れる

 ほんの一瞬間、


 次には即座に身体は自動的に弛緩し、体重の全てを畳に預ける


 この時になって漸く、い草の香りと、この部屋、否この家独特の香りが合わさった、己の好きな香りを堪能する事ができる



 この空間限定、至高の贅沢を富みに味わえる瞬間である



 次に身体を動かした時には、香りは軽減する為、暫しの間、この体勢のまま


 早く次の行動を起こせと言わんばかりに漂って来る香りに惑わされてはいけないのだ







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