障子越しの彼岸花 ― 常影の巻 ―




 摩訶不思議な自然現象か、

 巧みな技術を使う人間の悪戯か、

 この部屋での不思議な現象はどちらが引き起こしたものか。


 唯一共通しているのは、真昼中という時刻のみ。

 

 曼殊沙華の影が、克明に障子紙に映す出される。


 花火のような型には、鮮やかな紅はなく、吸い込まれるような漆黒のみ。

 障子紙と日光の白が、より、際立たせる幻影世界。


 不気味だと、遠ざかるか。

 妖艶だと、釘付けになるか。


 目の色を変えるか。

 

 毒と知ってもなお、


 毒と、知っているからこそ。



 


 欲しいと、彼の人は言う。

 障子に写る、障子の向こうに存在する曼殊沙華が欲しい。


 取る事はできない。

 常の言葉。

 だが、ほんの少しの好奇心が頭を擡げる。


 取ってくる事は可能。

 代償は、私の存在。

 それでも、

 

 ええ。


 彼の人は言う。

 ええ、あなたの温もりが消えても結構。

 私は曼殊沙華が欲しい。


 そうか。

 そう、か。


 迷いなく答える、彼の人の心を知り、私は微笑んだ。






「だって、私はずっと、あなたと一緒に居たいもの」


 手に触れられる現世でなくて構わない、

 手に触れられなくとも、目に見えてわかる冥府でいいのだ。


「だから、そこにいて」


「愛しているのなら、」


 愛していないのならば構わないから。







 この家から人が一人居なくなったというのに、

 その事実を知る者は誰もいなかったという。


 常に見ていたからだ。

 障子越しではあるものの、彼の人が愛した人の姿を。


 そこに、曼殊沙華の影はなかったという。







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