2019.1.

合格はちまき




「悪気はなかったんだよ」

「………」

「ただ、こんだけ頑張っても、さ。成果が出ないのは、そりゃあ、俺自身じゃなくてほかに原因があると思うのは道理だろ?」

「………」

「だから神社に奉納すればその災厄を祓えると思って」

「………」

「毎年まいとし」

「ばら撒いたわけね」

「災厄を祓う為には致し方なかったんです」

「しおらしい態度取ってもムダ。俺と同じように不幸のどん底に堕ちろって、その血走った目が訴えているわよ」

「だって、おかしくね。寝食は忘れないけど、それ以外はきちんと勉強してんのに、九年も落ち続けてんだぞ」

「それで、四年目からはちまきを奉納し続けていると」

「話も聞かず、管理もずさんなあんたらが悪い」

「管理に関しては否定できないけど。人がいない時間帯を見計らって、はちまきを御神木の傍に置いて行くだけの人に言われたくないわね。ったく。いい迷惑よ」

「廃れていた神社がにぎやかになってよかったじゃねえか」

「どの口がそんな事を。もう。口より手を動かしてよね。まったく。どれだけの頻度で、はちまきを変えてたのよ」

「毎日「莫迦ね」

「何がだよ。毎日新鮮な気持ちで挑んだ方がいいだろうが」

「莫迦。願掛けものを毎日変える人なんていないわよ」

「澱みを次の日に渡したくなかったんだよ」

「全部ひっくるめてのものでしょうが」

「知らんね」

「知らんねじゃないわよ。こんなにうるさくしといて」

「いやいや。怒りたいのは俺の方だから。なんで?なんで、俺の合格はちまきならぬ、不合格はちまきを持っているやつが、合格しまくっているわけ?しかも効果は学業だけじゃなくて職業も?なんじゃそりゃ。俺の負の怨念はどこ行った?」

「神社に持って来たことで、反転したんじゃないのって、神様が言ってる」

「え?え?神様いるの?どこ。んん゛。えー、ぃえー。神様。どうか俺も合格させてくださいぃ」

「神頼みしているようじゃ、来年もだめね」

「だめだから、神頼みしてんだろうが」

「そんな事より。早く、あんたの不合格はちまきを回収してよね」

「そんな事って。ったく。まあ、いいけどよ。俺だってこれ以上俺の不合格はちまき持ってるやつの幸福な顔なんて見たくないから、協力はするけどよ………管理、ずさんすぎだろ」

「一週間以内に片づけて、さっさと神聖で静寂な神社生活を取り戻すわよ」

「は。んな時間かけられるかっての。三日以内に終わらせて、勉強に戻るぞ」

「あと、掃除もよろしくね」

「給料はずめよ」

「騒ぎ起こした分の減給は継続ね」

「へぇへぇ」

「はちまきは合格するまで使い続けなさいよ」

「そうだな。そうすりゃあ、反転も分散もできないくらいに負も溜まって、受け取ったやつも俺と同じ運命を辿るだろうからな」

「はいはい。そうよ」






「今年は?」

「来年で諦める」

「はちまきは?」

「溜める」

「掃除は?」

「ぴっかぴかに磨いてやんぜ………けど、見事に閑古鳥が鳴いてんな」

「おかげで私のワンダフルライフが全うできているわよ」

「へいへい。よかったな」

「まあ。参拝客が押し寄せたおかげで神様も満腹になったみたいだし。結果オーライかしら。私の世代ではこれきりにしてほしいけど」

「?何か言ったか」

「さっさと掃除しろってね」

「おうよ。さっさと終わらせるぜ。来年こそは合格するぜ」

「甘酒なら奢ってあげるわよ」

「じゃあ、十杯」

「やめときなさい」







『12月18日の新聞:

山口県防府市の防府天満宮にて、受験生に人気の「合格はちまき(今年志望校に合格した元受験生が返納した縁起のいいはちまき。合格への意気込みや後輩へのメッセージが書き込まれたものも有)」を、巫女さんが洗濯。天日干し、のちに、アイロンがけして袋詰め。希望者に無料で配る』







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