お茶の花
茶の花を見た瞬間、これは自然の生け花だと思った。
障子のように光をよく通す白い花びらでできている器に、菜の花畑の如く、めいっぱい、こぼれんばかりに、素朴な黄色の蕊が生けられているように見えたのだ。
農家が育てるお茶畑では、茶葉の新芽への養分を多くするために、お茶の花が咲く前のつぼみの時期に摘み取り作業をしてしまう。だから、お茶の花を見る機会はそうそうないそうだ。
だがお茶の花に魅了された、この地域のこの茶畑では、もったない精神と地域おこしを合わせたのか。
茶摘み体験ならぬ、茶花摘み体験を大々的に主張しているおかげで、お茶の花が見放題である。
今年の開花は、十一月下旬。
曇天下、密やかながらも、冷ややかな風が全身を行き来する気候の中。
俯いているお茶の花をそっと摘む。
摘める数が制限されているお茶の花は、後日花茶として、家に届けられる。
花の可愛らしい姿を愛でながら、葉と花の味を楽しめるというわけだ。
『それをくれ』
過ったのは、小さな女の子。
全身真っ白で、冬を体現しているような姿形をしていた。
そういえば、と、
そういえば、初めてお茶の花を摘みに行った年のことだ。
女の子に話しかけられたのだ。
一人で行動するには幼い女の子に、お母さんとお父さんはどこにいるのと尋ねた。
女の子はあそこにいると、両親に向かって大きく手を振って、その方たちも手を振り返したので一安心をした。
明後日の方向を見ていたらどうしようかと思ったのだ。
大丈夫。きちんと女の子を見ている。
『それくれ』
摘んだお茶の花を指さしている女の子に、摘んでみないと聞けば、摘めないと言う。
摘むという行動が怖いけど、お茶の花は欲しい。
そんなところかと、予想をつけて、手渡そうとすれば、違うと怒られた。
『頭につけて』
髪飾りにしてほしいのと問えば、大きく頷かれて、胸の中がほっこりしたのを、思い出した。
そういえば、と、
そういえば、さらさらと流れる髪の毛に難行して、結局髪に飾れなくて、泣かれたんだっけ。
その時ばかりは、真っ白だった顔が真っ赤になって、あまりの赤さに倒れるんじゃないかって慌てたんだ。
忘れてたなあ。
しみじみ思い、笑いがにじみ出る。
「あの」
「はい」
話しかけられて、俯いていた顔を上げれば、見知らぬ人物に、けれど、既視感を覚える。
顔の造形、ではなく、その鮮やかな紅色に。
「あの、不躾で申し訳ありませんが、お茶の花をくださいませんか?どうしてか。あなたが持っているお茶の花がいっとう綺麗に見えるのです」
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