ちらし寿司




 酢れんこん。

 醤油砂糖しいたけ。

 市販の瓶鮭。

 しめさば。

 かいわれ大根。


 これらを酢飯に混ぜまして上にかけますは。


 桜でんぷん。

 錦糸卵。

 海老。

 さやえんどう。

 とびこ。


 食欲をとてつもなく誘い、思わず頬を緩ませてしまう、彩り豊かな眼福ちらし寿司を食べられますのは。


 誕生日。

 こどもの日。

 お盆。

 クリスマス。

 ひな祭り。


 もしくは、特別、なにかいい事があった刻だけ、

 だった。






「れんこんはぶ厚すぎたし、しいたけは焦がしちまったし、錦糸卵は塩入れすぎたし、さやえんどうは湯がきすぎたし。しめさばはないし。うち伝統のちらし寿司とは程遠いかもしんないけど」


 片手に載せられるくらいの大きさの、四角い竹弁当二つに彩重視で詰め込んで、いざ出発。

 緑茶は確実。

 桜餅か、三食団子か、ぼたもちか、きなこもちか、は不明だけれどどれか、もしくは全部は確実。

 に持ってきてくれるはずなのだ。




 さてさて、春の陽気に誘われまして。

 花より団子と言わず。

 花も団子も楽しもうじゃありませんか。

 ちらし寿司も今の季節と同じくらい絶景なのですから。


 気概は十分。

 願掛けは、ほどほど。

 さてさて、現実はいかほどに。


「愛情過多で喉を通らないかもしんないけど、見守っててくれよな」

「その年でようやく春が来たんだから、まずはしっかり胃袋掴んできなよ」

「おう………やっぱ、さくらんぼも付けたほうがいいよな。青果店に寄って買ってくるわ!」

「時間にだけは遅れるんじゃないよ……聞こえたのかね」


 我が家の春一番だね。

 苦笑してから、作ってくれたちらし寿司を持って、伴侶を誘い、こちらも花見としゃれこむ事にした。







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