メイストームデー(5月の嵐の日)




「いやだ!離れないって言った!」


 駄々を捏ねる。

 からだ全部で暴れてみせる。


「いやだいやだいやだ!」


 青息吐息のこの人。

 知っている。

 別れる気満々だって。

 

 あんなに。

 あんなに大切にするって、

 大事にするって、

 言ったくせに、


 手離すなんて。

 しかも後悔も未練も一切合切ないなんて、


 ひどすぎる!




 いつもいつもいつもいつだって、

 愛着が深くなる頃に別れを切り出される。


 いつもいつもいつもいつだって、

 じぶんばっかり。

 片思いだ、





 ぽたぽたぽた。

 とんだ茶番。

 防ぐべきものを自ら作り出すなんて、


 ぼろぼろぼろ。

 ああ、

 防げない、

 守れない、


 泣いている、

 惜しんでいる、

 喜んでいる、


 心の底から。


 じぶん以外の生物に向かって生まれるこの人の感情。 

 この人が、この人たちが、大切に、大事に想っている人の感情。


 


 別れる哀しさに打ちひしがれなくなる日は来るのだろうか、


 身を切られるような痛みから解放される日は来るのだろうか、


 新しい門出を喜びだけで満たされる日が来るのだろうか、




「結婚おめでとう」

「っありがとう」


 父親は息子に和傘を贈った。

 自らも父親から贈られた、紺青の蛇の目和傘。

 震えていたのは、大切にすると、優しく握る息子だけが原因、ではきっとないのだろう。




「私を、父を見守ってくれたように、息子をよろしく頼むよ」

「っやだよばーか」







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