2020.7.

竹の白花が織り込まれた布と鬼灯の白実を食べた牛




 百二十年に一度と言われるほどに希少である。

 稲穂のような竹の花が白く咲く刻と、


 五芒星のような形をした淡い黄色の花が咲き誇る中に。

 たった一つだけ、袋状のがくも、それに包まれた鬼灯の実も白く成る刻が、


 重なり合うと。


 土に含まれた水が天へと昇る。

 傍目には天から地へと激しく降る、篠突く雨と変わらぬように見えた。

 

 だが、


 或る人は言う。

 素麺のよう、


 或る人は言う。

 流星のよう、




 その不思議な現象が終わりを告げ、

 ふと人々が視線を下げれば、

 足元には、ひびの入った乾き切った地面があるだけ。


 たった一人だけは違った。

 そこから僅かに視線を上げれば、

 網目のように白い脈だけが透けて見える袋と、

 不気味なようでいて、神々しくもある、白い鬼灯の実が瞳に映った。




 天へと昇った土水は一か所に集まり。

 花が咲く孟宗竹の幹へと飛び込めば。

 うなだれる竹の花が一斉に天を仰ぎ。

 鬼灯の実は袋を蹴破って飛び出した。


 飛んで、沈んで、跳んで、


 辿り着いたのは、まるで白鳥が羽を広げるような形を取る、竹の花の元。


 これまでの勢いを殺して、丁寧にその上へと降り立つと。


 ぽんと。


 それはそれは可愛らしい音が鳴って。


 竹の花も、鬼灯の実も。

 幾度も幾度も空で小さな放物線を描きながら、

 天へと飛び跳ねた。


 ぽん。ぽん。ぽん、と。

 可愛らしい音を鳴らしながら昇り続ける。


 一直線に行かなかったのは。

 篠突く雨の所為か、

 望んだことなのか、


 地球からも飛び出して。

 無重力もお構いなしに。

 天の川へと行きつけば。

 彦星と織姫の掌と誘われた。


 彦星は鬼灯の実を牛に食べさせて。

 織姫は竹の花を布に織り込んで。


 よろしくお願いね。

 よろしく頼むぞ。


 そう言って、鬼灯の実を食べた牛に、竹の花が織り込まれた布を運ばせた。


 暢気に、朗らかに、牛が前脚も後脚も小さく動かしながら、宇宙を歩いて。

 地球へと辿り着き。


 も~~~。


 口から布を離して、思わず力みが抜けてしまいそうな鳴き声を上げる。




 同じ瞬間。

 原因不明。


 地球に住む、世界中の誰もが笑う中。


 天を見上げた一人が、声を上げて。

 一人、また一人と、声を上げると。


 笑い声に、喝采が交わった。




 も~~~。


 鳴き声をもう一度上げて、牛は彦星と織姫の元へと帰って行ったのであった。







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