小人と座敷童の文通
ご苦労様。
気のせいか。いや、きっと、気のせいではない。会う度にほんの僅かにでも、大きく、逞しくなっている蟻に礼を述べて、見送って、荷を解いた。
いつものように。
一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。
葉の大きさや形や数も違うし、包み方も三角や四角や巾着袋だったりする。
彼女からの届け物は。
一方通行だった。
彼女が私を見つけたのは、今も、そして、未来永劫続く旅の途中。偶然の出来事だった。
一緒に行きませんか。
世界を一人で歩き、世界を丸ごと楽しんでいる、その頼りがいのある笑顔で仰いだ。地に膝をつけて。
さながら、傅きながらお姫様の手を取る王子様のように。
私の背の半分にも届かない、その小さき人は、太陽のように眩しかった。
いくつの質疑応答を交わしただろう。
唐突の誘いに、けれど、一点も動揺しなかった私はにっこり笑って丁重に断った。
行きませんよ。
お仕事があるから?
そう。
終わったら?
終わる事はないですよ。貴女の旅と一緒。未来永劫。終わらない。
ずっと家の中で退屈じゃない?
家の中でも変化はありますし、外が見えないわけではないですから。それに、家の人が届けてくれますから。まったく触れないわけではないです。
葉。花。農作物。肉。虫。とか?
季節の雨や土や風の匂いも。
ふむふむと頷く彼女は納得してくれた。
今は、と。
それから不規則に届けられる、文字のない荷。
今日も、今日とて、干からびている荷。
わざと、なのだろうか。
本来の色や触覚、匂いを知りたいのなら、と、旅への意欲を引き出す為に。
心配事が増えましたよ。
要らぬ、が前に付くだろうが。
一寸、恨み言を言いたくなる。
茶に変化したそれは、元は苔だったのだろう。
ふかふかの苔の上で昼寝るのは格別だと、彼女は言っていた。
呼ばれたので、行ってみると、床に伏した当主が、見えるはずもないはずなのに、ひたと、私の瞳を見据えて、告げた。
ありがとうと。
自由におなりくださいと。
勘違いも甚だしい。
居たいから、居ただけ。
見守りたいから、見守っていただけ。
結果、災厄を祓う事になろうとも。
行きませんよ、私は。
この建物が取り壊されるまでは。
取り壊されたら、また、違う住み家を探すだけ。
探しながら、旅をしよう、と彼女は言うだろうか。
残念。
叶うとしても、まだまだ、ずうっと先の話。
だから私は待ち続けるのだ。
要らぬ心配をしながら。
干からびた彼女の荷を。
でも、今日は彼女に初めて、お返しができそうだ。
字は読めると言っていたから、大丈夫だろう。
「着物の端切れ・・・・・・・・・達筆すぎて読めないって」
仕方ない。
彼女は背伸びをして、蟻と共に歩き出した。
向かうは、座敷童が居る邸。
干からびていない土産を途中で調達して、いざ行かん。
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