枯れ木に花咲く




 深緑の葉、胡桃色の枝に幹、紅と橙の小さくて丸い実。


 四色持つ南天の木が大小と周りを囲む。

 灰の一色しかない木の周りを囲む。


 白にひとしずくの黒を混ぜたような灰の木は、葉を持たず、幹と枝だけ。




 あるものはいう。 

 寒々しい印象は、彩り豊かな南天の木によって、より一層際立たされた。


 あるものはいう。

 南天の木にしか目が行かず、灰色の木は存在さえ気付かなかった。


 目に入れたくない。

 目に入らない。 


 灰色の木に目が奪われる事はないのか。


 否。

 

 雪が降る刻だけ。


 純白の五枚の花弁で成る花が咲く刻だけ、

 みなのめが釘付けになる。


 白に近い灰の幹に枝に。

 純白の花々。


 一層寒々しくなるにもかかわらず、

 一層天に紛れてしまうにもかかわらず、


 ついと、伸ばしそうになる手を阻むのは、南天の木。


 越えられぬわけでもない。

 茨があるわけでもない。


 ただ、

 実を落とすのが忍びないと、行く足を留める。


 いいや。


 思わず息をのんでしまう、この清廉潔白な風景を。

 思わず息をもらしてしまう、この幻想的な美しい風景を。


 ただ荒らしたくないだけなのに、

 どうしてか、実を落とすのが忍びないと言い訳を口にしてしまうのだ。







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