2020.12.

茨の道




 男の名は、あざな。

 世界からヒトゴロシの武器を消し去った人物でもあり。

 想い人に好きの一言も伝えられなかった人物でもある。




 







 某国某施設。

 ここの武器を消し去ってしまえば、地球上から武器が消えた事になる。

 例えば、一時的であったとしても。


 苦節二十年。

 想い人との二人だけの実行がいつしか、同じ志を持つ仲間の協力も得られて、ここまで来る事が出来た。


 男は眼前の武器から刹那の間だけ、背後で仲間と共に己を守ってくれている想い人に想いを馳せた。


 旅のはじめ。

 好きだの一言も伝えられず。

 この旅を無事に終えられたら、恋人になってほしいと伝えるからそれまで待っていてほしいとだけ伝えた。

 すると、微妙な顔を見せられた。

 嬉しいのか、嬉しくないのか判別できない顔。


 もしかして、自分のテンションを下げさせない為に、同行してくれているのか。

 いやいやいや、気があるから、同行してくれているんだろう。


 肉体もさることながら感情の限界も数えきれないほどに迎えた二十年間だった。




 今日でおしまいだ。

 

 男は感極まった。

 どちらともにも決着がつけられるのだから。


 ちいさくやわい息を吐いて。

 武器にりょうのてのひらを押し当てて。

 武器の正式名称を口にする。

 すれば、武器は消え去る。

 ただの漢字とだけに化けて。

 男の身体に刻まれるのだ。


 手に触れられて、かつ、名称が分かるものは何であれ、漢字に化かし、身の内に取り込む事が出来る。

 それが男の能力であった。


 取り込んだが最後。

 もう二度と、物体化させられない。



 ヒトゴロシの武器が消え去った瞬間。

 瞬時に世界にその情報が駆け巡り。

 悲鳴が聞こえる。

 歓声が聞こえる。




 まだ終わりではない。

 まだ。


 脅威だと狙われるだろう。

 英雄だと狙われるだろう。


 終わりたいのに、終われない。




 いいさ。

 男は笑った。

 いいさ。

 付き合ってやるよ。

 この身が滅ぶまで。

 

 男は不遜な笑みを湛えたまま。

 瓦礫の中。

 仲間が湛え合う中。


 慎重に近づいて、胸の内ポケットから取り出し、想い人に十二枚の紙を差し出した。

 十二色の筆で薔薇の漢字が書いた恋文だった。


 くしくも、本日十二月十二日は十二本の薔薇を愛情の印として恋人に贈る日だそうだ。

 恋人じゃないけど。

 いいだろう別に。

 本物の薔薇じゃなくてもいいだろう別に。

 手折った花が枯れていくのをまだ見たくないんだよ。


 恋人になってくれとは決死の覚悟で以て言えたけど。

 好きとはまだ言えなんだよ。


 口の端を限界まで下げた男の瞳に映ったのは。

 想い人が言えると口にした姿と。

 次々に十二枚の紙の裏に何かを書いている姿であった。




 

















 おそいばかすきだとやっと。










(2020.12.12)



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