五月五日
い草の紐に竹の葉に包まれた甘い粽。
漉し餡の柏餅。
粒餡の蓬柏餅。
練がしっかりしていて、甘さが控えめのそれらを濃い緑茶と共に味わって。
鎧兜の五月人形を背後を守らせて。
籠玉と矢車の竿に支えられて、悠々と青空を泳ぐ五色の吹き流し、真鯉、緋鯉、子鯉を目で楽しむ。
快晴のこの日にすべてが映えている。
畳の上に寝転んで、背伸びをして。
ああ、いい天気だなあと、呟いて。
夏を思わせる日光に、冬を思い出させるそよ風。
調和して創り出された心地好さに身を委ねる。
ああ、いい天気だな。
また呟けば、唐突に笑いが込み上げて来た。
長閑な光景だな。
話しかけられたのか、ただの独り言か。
聞き慣れた声に、口の端を上げるだけで応える。
瞼の裏では、龍になった鯉が天上から降らせた鱗が鎧兜の五月人形になって、菖蒲の葉を振り回したり、こいのぼりにまたがったり、柏餅や粽を取り合ったり、てんやわんやな光景が広がっている。
忙しないのに、なんて平和で微笑ましい光景。
突然顔に布が被せられる。
いや、顔と言わず全身に。
文句は言わない。
感謝も伝えない。
私は今、眠っているのだ。
だから、起きたその刻にでも言おう。
悲しかったからじゃない。
嬉しくて、泣いたのだと。
平和な世だと思って。
改めて平和なのだと感じたら。
心身共に歓喜で奮えて、涙が生まれただけだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます