2020.1.

石の上にも悠久と、




 1月4日。

 この日に地蔵、狛犬、墓石など、願いがかけられた石に触れると。

 願いが叶うと言われている。






 桃。

 藤。

 勿忘草。

 若竹。

 菜の花。


 微かと波打つ瑠璃に、

 幽かと滲むそれらの色は、

 今は山の裏に隠れて全容が見えない日輪のもの。


 美しいと。


 思う傍ら、私は。

 私は、


 片手で覆い切れぬ石に痛みを訴える。

 願いを乞う。


 山の頭上へと全容を見せた日輪によって、生まれた光の道。

 触れれば天国にさえ無条件に連れて行ってくれそうなほどに、眩く、清浄な光が、真っ直ぐと私へと向かってきた。


 けれど、私には届かない。


 届かなければ、向かえばいいだけの話。

 けれど私にはもう、動く力はなく。


「どうか、」


 私はただ、手の下にあった石に願いを乞う以外、何もできはしなかった。 



  





 



「おまえたち!」


 姿を見るのは何度目か。

 数えて、己の未熟さに臍を噛む。


 私は何度やつらを取り逃がせばいい。


 桃。

 藤。

 勿忘草。

 若竹。

 菜の花。


 時に、幽かと。

 時に、露わに。


 それらの色が浮き立つ瑠璃の石は金持ちの中で重宝されていた。

 それを持てば身を亡ぼすという曰く付きであっても、鼻で笑うだけ。

 

 欲しい。どうしても、


 かくして、瑠璃の石を手に入れた金持ちの末路は、鼻で笑うものであった。




 瑠璃の石を抹消してほしい。

 

 金持ち連合が曰くを信じ始めたが、それでもどうしても、手にしたい欲求を抑えられない事に頭を抱え始めた頃。

 私に依頼が来たのだ。

 

 


「おまえたち、早くそれを渡せ!」


 冷静に、けれど、怒りや焦りは滲み出てしまう。

 追いつめても、追いつめても、追いつめたって。

 嘲笑うように笑みを浮かべるやつらは忽然と姿を消す。

 言葉は一つもなく。

 今日、も。


「…私は、」


 伏せた目に映るのは、己では到底手の届かない道具の数々。

 思わず漏れた息には、意味がいくつかあった。

 数えるなら、三つ。


「私は」


 一つ、また一つと、意味を消して、一つにする。

 私はただ依頼を遂行するだけだった。










 

「まだまだ願いは叶えられそうにないな」

「そうだね」


 優しい菜種色が、時には眩いばかりの金髪になる人物に優しく相槌を打つのは、冷たい黒色が、時に安らぎを与える瑠璃に変わる髪になる人物であった。


「でも、焦る事はないさ。私たちには時間があるから」

「…そうだな」


 幽かと金髪になった人物は、かつて己の中で響いた声を思い出した。

 二つ。

 遥か昔と。

 少し昔と。




 幽かと瑠璃色になった髪に、少しだけ昔を思い出した。

 すべて滅んでしまえと。

 もしくは、世界を変えてやると。


 叶えられる日はまだまだ遥か遠く。

 けれど、時間だけは優に超える。


 叶えてみせよう。


 叶える手段をくれた相方と一緒に。

 相方を生むきっかえをくれたその人の為にも。


「叶えような」


 黒髪の人物は、金髪の人物を眇めて微笑んだ。








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