大風によって運ばれる




 大風によって運ばれてくる土塩。

 時間が許す限り。

 家の窓をすべて開けて迎え入れる。


 時に目も開けられないくらいの大風は感じられても、その中に存在しているはずの土塩はまるで感じられない。

 痛みも、匂いもまるでない。

 少しだけ生まれる不安も、腰を下ろして両の手で床を撫でてみれば、ざらついた感触を得られて帳消しになる。


 一時間後。

 今日の制限時間が来て、窓をすべて閉めて、土塩を集める。

 床に限らず、棚や机、椅子の上に薄く積もっている砂塩を、小さい掃除機のような専用の機械を使って、取りこぼしのないように時間をかけて。

 すべて回収し終えたら、ジュースミキサーのような機械に入れて、土と塩を洗浄、分離させる。


 塩は料理や薬を作る為に使うのだ。

 砂は食材や器を作る為に使うのだ。


 どちらともに、小指の第一関節くらいの量。

 

 塩は申し分がないが、土はもう少し欲しかった。

 新しいお猪口を二個作りたかったのだ。


 ちらと、

 ミニトマトの苗の下、今まで集めてきた土を見て、やわく頭を振り、今日の土を加える。


 ああ、贅沢に取れたての土を使って器を作りたいな。

 鮮やかな色で、光沢があり、手触りが滑らかなのだ。


 まあでも、取れたてじゃなくても、いい味をしているとも言えるか。


 灰色のひびが幾重にも縦に入っているお碗を見てひとりごちてながら、艶やかなミニトマトを一つだけもぎ取った。 




 今日のご飯は塩おむすび、ミニトマトと卵と鶏のスープにしよう。







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