1ロリ 走れクルシュ
私は再び目を覚ます。
やはりこれは死に戻りかと考える。
場所は最初の位置で森の中の湖の側。
「うっ、うう……おぇ」
私は泣きじゃくり嘔吐する。
私を獲物としか見ていない熊とプテラノドンの目。
そして尋常ではない激痛と恐怖。
それらを鮮明に思い出してしまう。
もういやだ。
そう思っても諦めることはできない。死に戻りは続くからだ。
私は先ほどとは違う方向へ走り出す。
鬱蒼と生い茂っている森の中を、ただ走っていた。あいつらに殺されて喰われないために。
走って走って走り続けた。
足が悲鳴をあげようが知ったことじゃない。喰われたときの痛みに比べれば、足の痛みなど些細なことだ。
走っていると蜘蛛の巣を見かけるのが増えてきた気がする。
もしかするとここら一帯は蜘蛛の縄張りかもしれない。一度引き返そう。今ならまだ間に合う。
そして今きた道を引き返す。
やはりここは蜘蛛の縄張りだったようだ。
掌サイズの小さな蜘蛛が木の幹に現れ始める。中には私の頭ほどの蜘蛛もいた。数千はいるだろう蜘蛛がカサカサと現れる。
しかし走っている私を追ってこない。
だが目の前に大きな蜘蛛が降り立つ。
十本の足と四本の手。そして体表は毛で覆われおり、無数の目がギョロギョロと動く。赤と黒、そして青色をした今にも吐きそうな気持ちの悪い蜘蛛だった。
ガチガチっガチガチっ
奴は歯を鳴らして威嚇している。
私は間を通り抜け走る走る。
去り際に何かを刺されたのか、腕がちくっとしたが気にせずに走る。毒かもしれないが捕まれば死ぬのは確実だ。
(走れクルシュっ。諦めるなっ。ここで諦めて捕まれば絶対に死ぬっ)
私はがむしゃらに走った。
そしてしばらく森の中を走り続けて、たまたま見つけた洞穴に逃げ込む。
中は湿気でぐちゃぐちゃだったが魔物もいないようなので安心した。
環境は悪いが文句は言ってられない。ここで休息することにしよう。
そして私は隅の方で丸まる。
「なんで私がこんな目に遭わなきゃ……」
私は涙を流して弱音を吐く。
思い出すのは高校での何気ない日常。
学校で数少ない友達と駄弁ったり、眠たくなるような授業をボーッと聞いたり、密かに想いを寄せていたクラスメイトの生徒副会長を盗み見て友達にからかわれる、そんな日々を思い返す。たしかにつまらなかった。なんの変化もなくこれといった面白みがない毎日。刺激を求めていた。そう異世界のような楽しい刺激が。
だけれど今思えばそんな日常が良かった。今みたいな化け物に襲われて逃げ続ける日々よりずっと楽しい。
私は疲労からか目を瞑るとすぐに眠りについた。
◇◇◇
深い眠りから目を覚ます。
この洞穴に入った時は日も完全に出ていたのだが、今ではすっかり日も暮れ外は真っ暗だった。
腕がズキッと痛むので、腕を見ればそこは青黒く変色し大きく腫れていた。やっぱり蜘蛛の放った何かは毒だったのだろう。ズキズキと痛みが襲ってくる。
顔をしかめるほど痛い。だけれど私は気にせずに外を眺める。
現代のような街明かりが何もないのか、綺麗に輝く無限の星々。
異世界らしく赤い月と青い月の二つが空に登っていた。
そして夜ゆえにすこしだけ肌寒い。
(そういえば今着ているのはブカブカの服とも呼べない布だったな)
夜行性の魔物は少ないのか木の葉が風で揺れる音しかしない。
私は安心する。
初めての休息。
明日はどうするか。
ここに止まるのもいいが腕がこれだといずれ死ぬだろう。それなら出来るだけ周りの環境を把握しておいたほうがいいのかもしれない。
私には死に戻りがあるのだから。
私は夜空を眺め続け、次第に微睡み再び眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます