23ロリ そして

 皆んなが神樹の麓に集まったので私はこれからについて話す。


「私は、世界を旅して分霊を集めようと思う」

「分霊……なの?」

「ああ、そういえばリリたちは知らないんだったな」

「分霊っていうのはな――」


 私は月の魔女から知り得たことをリリ達に話す。

 太陽神と月の神が己の魂を九つに分けたこと。

 その太陽神の分霊の一つが私であること。

 奴はそれを集めて世界を滅ぼそうとしていること。

 それを防ぐために私は太陽神の九つの分霊を集めること。

 それら全てを話す。


 博識のレヴァでさえ知り得なかった情報にリリ達は聞き入って驚く。

 レヴァは神龍や神樹ですら手も足も出なかったことに納得したようだ。


「あの私もいますよ?」


 どこかからか声が聞こえた。

 リリとアルテナはビクッと肩を震わせる。

 バッと声のした方を見れば持ち手だけとなった剣があった。


「ああそういえばいたな」

「そんなっ!? ひどいですよクルシュさん。それで私も連れて行ってください」


 私はソルジュがいたことをすっかり忘れていた。


「まあ別にいいが……持ち手だけでも大丈夫なんだな」

「大丈夫じゃないです。新しい剣がいいです。クルシュさんだってボロ屋に住みたく無いでしょう?」

「それボロ屋なのか……」


 意外と大丈夫かと思ったが大丈夫では無いらしい。


「クルシュ、これなに?」


 リリは恐る恐る剣を指差し私に尋ねる。


「ああ、これは月の神の分霊の一人だったソルジュが剣に憑いたんだ」

「?」


 頭にハテナマークを浮かべるリリ。

 私はリリ達に詳しく説明をして納得してもらう。


「なあソルジュ」

「何です?」

「なんでお前はそんなに私についてきたいんだ?」

「それは彼女を、ミーズを救いたいからです」

「救う? なんでまた……」

「それは私とミーズの過去について話す必要がありますが……聞きたいですか?」

「ああ」


 私はソルジュが魔女を救う理由を聞く。


「私とミーズは小さな村に生まれ幼馴染みの関係でした。しかしある日、私たちが十歳ぐらいの時に盗賊が村を襲ってきました。その時に私とミーズは奴隷にされてしまったんです。それから徐々にミーズがおかしくなっていったんです。夜な夜な牢屋の中で「なんで私がこんな目に……」「復讐してやる……」と呟くようになって、奴隷になって五年が経った時遂にミーズが暴走したんです」


 ソルジュは剣だがどこか悲しさを感じる。


「ミーズは【月読之写身】を使って奴隷商を破壊、ついでに近くの家屋も壊して私を連れてその街から逃げて放浪生活が始まりました。その頃はまだ良かったのです。まだ私も一緒に助けようという気持ちがミーズには残っていたのですから」


 「でも――」とソルジュは続ける。


「私も【月読之写身】が使えると分かってから私への反応も冷たくなって、最後には殺されました。そして私はミーズに吸収され何とか意識だけは保つことができましたが生憎意識だけですので何も出来ませんでした」


 数瞬、静寂に包まれる。


「……だから私は幼馴染みとして彼女を救いたいんです」

「そうだったのか」


 少し重い雰囲気になる。


「それなら私にできることがあるならやろう」

「いいのですか?」

「ああ、ついでだついで。まああいつに話して変わらなかったら殺す」

「はい、ありがとうございます」

「さて、そんわけでリリ」

「なに?」

「私は森を出る」


 今までずっと側にいた私がこの森を離れるとリリは心配するのではないか。そう思い、リリを見る。

 リリは少し目を瞑り考える素振りを見せ結論が出たのか目を開いて口を開く。


「分かったの。クルシュがここを離れるのは寂しいけど、仕方ないの」

「ああ、ありがとう。そういえばガリアはどうするんだ?」

「俺は……クルシュ殿についていきたい。俺はまだクルシュ殿の配下だ。主の行くところが配下の行くところだ」

「そうか」


 レヴァは真剣な眼差しで私を見つめる。


「レヴァはどうする?」

「我はここに残ろう。また魔女が来たら返り討ちにしてやるのだ。だからクルシュは安心して我にここを任せるが良い」


 私がここを留守にすることにより魔女が再び襲来したらという心配もレヴァは気づいていたようだ。


「そうか。なら私はガリアと一緒に世界を旅してくるとするか」


 私はガリアと共に分霊探しを決める。

 ガリアは嬉しいのか尻尾をぶるんぶるんと回す。お前は扇風機か。


「それでできるだけ早く出たい。だから明日にでも出ようと思うんだが。いいか?」


 私はリリとガリアに聞く。


「ああ俺はいつでも構わん」

「分かったの。代わりに今夜の夕食は豪華にしてなの」

「ああ分かったよ。さてっ」


 私は立ち上がって家に向かう。

 どうやら神樹の側の方が治りが早くなるそうでここでリリが私を膝枕して看病してくれていたのだ。


「どこいくの? クルシュ」

「夕食は豪華なのがいいんだろ? それなら今から準備しないとな。アルテナも手伝ってくれ」


 私は最後の夜をリリ達と過ごす。


 ◇◇◇


 翌日。

 豪華な夕食を食べ楽しいひと時を過ごした翌日。

 夜にベッドの上でリリとアルテナに激しく迫られた翌日。


 私は荷物――といっても荷物のほとんどは異次元収納に入っており持つものはほとんどない――を持ってガリアに跨る。

 近くの町までガリアに乗って行くことにした。乗馬ではなく乗狼である。


「じゃあリリ、アルテナ、レヴァ。しばらくの間さよならだ。リリ、私がいないからって泣くなよ?」

「な、泣かないのっ」

「昨夜泣いてたくせに……アルテナ、森の魔物のことは頼むぞ?」

「ええ、任せてください」

「頼もしいな。レヴァ、留守は任せたぞ?」

「ああ、神龍の名にかけて森は守ろう」

「ああ」


 皆頼もしい限りである。

 するとリリが枝に乗って私に近づく。そしてギュッと抱きつきキスをする。


「…………ぷはぁ。クルシュ、気をつけてね? 忘れ物はないの? 世界地図は持った? 常識は持った? 手加減は覚えた?」

「お前は私のおかんか。てか最後のなんだよ」

「心配なの。でもクルシュなら大丈夫なの。なにかあったらここに帰ってくるの。我は待ってるから」

「ああじゃあなリリ」

「うんバイバイなのクルシュ」


 今世の別れではないのだが悲しくなる。

 しかし私は行かなくてはいけない。このまま出発が長引けば長引くほど別れが辛くなる。

 だから私はリリの腰に回していた手をほどき、ガリアに出発を伝える。


「じゃあな! リリ! アルテナ! レヴァ! またいつか!」

「バイバイなの!」

「行ってらっしゃい、クルシュさん!」

「安心して行くのだ、クルシュ!」


 風が頬を撫で神樹を瞬く間に後方に置いて行く。

 私はガリアの背に乗って『世界最恐の森』を駆け抜ける。


 目的地はこの森に面した三国のうちの一国アルタイル帝国。

 そこは実力がものを言う実力至上主義の国。実力が全て。だから帝王すらも実力によって選ばれる。そんな国。

 分霊の在り処は分からない。だが、そこには分霊がある気がする。


 私はガリアと共に、月の魔女に対抗する為、そしてソルジュの願いの為、分霊を探しに世界を旅する。






=1章終わり=



◯1章のあとがき的な何か

 読者の皆様、【幼女無双 〜最恐の幼女は異世界で嗤う〜】をここまでお読みくださりありがとうございます。これにて1章は完結でございます。

 ここまで33話、およそ5万9000字。およそ文庫本半分の文量でございます。1章だけで文庫本一冊分は越えたかったのですが如何せん難しい。ともかく、ここまで書き続けられたので良しとしましょう。

 そして現時点(5月22日この話の投稿前時点)でフォロー56、星評価21、PV4452を記録しております。フォローしてくださった皆様、評価してくださった皆様、ここまで読んでくださった皆様に深い感謝を。少々、いや大分欲を言えばもっと評価してくれてもいいのですよ? フォローの方が50もいれば星3評価で150もいけるのです。1でもいいのですよ? まあ強制するつもりはありませんがこれだけは言わせていただきたい。

「人とは、褒められて伸びる生き物である!」

 作者も人ですので当然褒められたら執筆意欲に繋がります。ですのでよろしければ今作の評価をお願いします。

 さて1章完結ではたしてあとがき的な何かを書いていいのか迷いましたが、まあ僕の作品ですのでいいですよね。作品的にも区切りですし。

 改めて1章はこれにて完結。次章からは森を出て世界が舞台です。なおプロットはある程度はでき徐々に執筆を始めています。次話の更新時期は未定ですが下手したら1ヶ月かかるかもしれません(学校も再開しますし)のでフォローがまだの人はぜひ(しつこい。だがしつこいくらいがちょうどいい←ぺ◯ぱかな?)。もしかしたら閑話を投稿するかもしれません。ガリアとの道中だとか、森での生活を振り返ったりとか。とにかく未定です。


 それでは2章の更新までしばしのお待ちを!

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