15ロリ 本気の幼女
私を中心に空間すらも歪むような魔力が吹き荒れる。あまりの魔力の量に空間がキシキシと悲鳴をあげている。
本気だと思っていた私からそれ以上の魔力が吹き出し、目を限界まで開いて驚いている。
こんなにも魔力が吹き出したのは、私が奥の手の【天照之写身】を発動したからだ。
奴が来たのが日中で良かった。今は真上に太陽が登っている。おかげで【天照之写身】も本来の力を使える。
私は奴を睨む。
睨まれた奴はビクッと体を震わせる。まるでライオンの前にいるウサギのようだ。
おっと、つい口角が上がっていた。しかし楽しいな。自分の本来の力を曝け出すのは。しかしリリが言っていたように慢心はいけない。まあ今回ばかりはいいだろう。
私は消える。
否、そう錯覚するほど速く空気を蹴って奴に近づいたのだ。
奴は何とか目で追えていたようだが、あまりに唐突のことで体が反応しきれずにいた。
私はガラ空きの顔に本気のパンチをお見舞いする。
「ぐふぅっ!!」
【衝撃付与】は使っていなかったのだが自然に衝撃が出る。
強烈なパンチは奴の頬に吸い込まれるようにして繰り出され、直撃。奴は吹き飛ぶ。
私はそれを追いかけ追い討ちをかける。
次第に奴も私の速さに慣れてきたようで少しずつ防御するようになってきた。
奴の尾が音速で私を襲う。
私は後方に下がることで回避する。
「はぁはぁはぁ……まさか、ここまでとはっ……ぐふっ……面白い!」
奴からも魔力が噴水のように吹き出す。
「リリ! アルテナ! もうちょい守っててくれ!」
「わ、分かったの!」
「分かりました!」
未だに結界を張ってこの猛攻でも神樹を守ってくれている二人に声をかける。神樹の周囲は無傷だったがそれ以外は本当にひどい有様だ。
再び私から奴に仕掛ける。先ほど接近戦をしたので今度は魔法だ。
私は宙に百個の魔法弾を作る。
魔法弾とはただ魔力を球体にしただけの簡単な魔法だ。しかし今回は魔力を限界まで圧縮しており、通常の十倍以上の魔力で出来ている。
それを奴は見抜いたようだ。
だがこれだけでは終わらない。そこに更に日属性を付与していく。まだこの属性の魔法は十全に使えるわけはないが付与するぐらいなら問題は無い。
圧縮された魔力弾に日属性が付与され、赤や青すらも超えて白く燦々と煌く魔力弾に変化した。
こうして百個の高圧縮日属性付与魔力弾が出来た。
その威力は唯の魔力弾の比ではない。
奴もその威力に感づいたようで戦慄している。
私はそれらを操作して奴にぶつけていく。
奴は必死に当たらないよう避けていく。
流石だ。百個の魔力弾を掠らないように最小限の動きで避けている。
だが計算通り。
「はっ!?」
奴もそれに気づいたがもう遅い。
奴が避けている間私は奴の周囲に魔力弾を配置していったのだ。よって奴を囲むように魔力弾が散らばっている。逃げ場はない。
私は手を前に出す。
「どうだ? 本気の私は」
「化け物だな」
どうやら私は神龍ですら化け物扱いするほどらしい。
私は開いていた手を握ると、魔力弾が中心の神龍に向かって進み出す。
音が伝わる限界は194デシベルだそうだ。それ以上の音は衝撃波となるのだ。ちなみに地球史上で最も大きな音を出したのは1883年のクラカタウ大噴火の180デシベルだったはずだ。
それは置いておいて、今それと同じことが起きていた。音にならない音が発生し強大な衝撃波を生む。
私は何とか結界を張り耐える。
しかしその衝撃波は世界を駆ける。クラカタウ大噴火の際も地球を三から四周ほどしたそうだ。それ以上の音が世界を駆けた。
世界を音が支配する――そういう表現が正しいだろう。
今頃世界中では大騒動となっているだろうが気にしない。一応、奴ごと囲むように結界を張ったが相当な衝撃波が駆けたことだろう。
もちろん近くの木々は綺麗さっぱり消し飛んだ。リリとアルテナの張っていた結界にもヒビが入る。ヒビが入るだけで済んだのはすごいことだ。
十数分してようやくその余波もなくなり落ち着きを取り戻す。
さすがの神龍も大ダメージを負っただろう。
奴が変わらずいた。
「マジかよ」
まだ生きていた。そう思っていたが奴は気絶しているのか逆さまに落ちていった。そしてその巨体が地面に激突し再び衝撃波を発する。
いやぁ、今日は衝撃波警報を出すべきだったか、なんてことを考えながら私は【天照之写身】を解除して地面に降りる。
「ク、クルシュゥー」
「お、リリ大丈夫だったか」
「大丈夫。だけどいつからそんな化け物になってたの」
リリがアルテナの後ろに隠れながら問う。
「ん? いやぁあの魔力弾はつい最近出来るようになったんだが使う相手がいなくてな。ガリアだと最悪死んでしまうかも知れんし。ちょうどいい実験体が来て良かったよ」
「クルシュ、恐ろしい子!」
少女漫画のようなリアクションをするリリ。
「これからあんなことをするときは一言言ってくださいね、クルシュさん」
「ああ、分かってるよ。まあいつ以上の相手なんてそうそういないだろ」
「それもそうですが……」
アルテナから注意を受ける。
「それでクルシュ、森の魔物たちは大丈夫なのか?」
「……あ」
すっかり忘れていた。クラカタウ大噴火の時で60キロメートル離れた場所にいた人の鼓膜も破った音以上で、しかも数十キロの位置にいた魔物たちは死んでいるだろう。
「南無阿弥陀仏」
私は冥福を祈る。
「彼らなら大丈夫ですよ。私が咄嗟に彼らをこちらに転移させ守りましたから。存分に感謝してください」
「おぉー! さすがアルテナだ! ありがとう!」
アルテナのファインプレーによって魔物たちは助かったようだ。
良かった良かった。
神龍は泡を吹き白目を剥いて気絶していた。
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