31ロリ 夜の街
この街の夜は賑やかだ。
帝都ほどではないらしいが私からすれば十分に活気を感じた。
飲み屋街は日中よりも騒がしく宿屋近辺も飲みにいく冒険者、酔い潰れて帰っていく冒険者、道中で力尽き眠っている人。実に生き生きとしていた。
そんな夜の街を私はガリアと共に練り歩いていた。
まだ夕飯は食べていない。なのでどこかの店に入って食べるか、それとも屋台で買い食いをするか迷っている。
冒険酒場クレムギアン、サタンカ食堂、アールンナイツの宴……
などなどの店々。どれも美味しそうな匂いがする。
焼き鳥、らーめん、揚げ物……
などなどの屋台。どれも美味しそうな音や匂いをしている。
「ガリア、どうするよ」
『どれも捨てがたいっ』
「だよなぁ」
ガリアは――周りの目を気にして――念話で答える。ガリアも私と同じように迷っているようだ。
本当にどれにしようか。そう迷っている時、心優しい冒険者が現れた。
「ボスっ! お久しぶりです!」
「ん? おぉ、お前たちか」
そこには元チンピラの二人組がいた。
ちなみに赤色のモヒカンがグルド、緑色のモヒカンがゲルドだそうだ。二人は兄弟だという。
「はいっ。……ボス、もしかしてどこの店で食べようか迷ってます?」
「っ、ああそうだ。そうだどこの店がおすすめとかあるか?」
「はいもちろんでございやす。元々俺たちもボスが迷っているようでしたので教えて差し上げようとしていたところですっ」
二人はビシッと敬礼する。
「まず、今は何を食べたい気分でしょう」
「う〜ん、肉、だな」
「それでしたら、そこの屋台の焼き鳥がおすすめです」
赤のグルドは一つの屋台を指差す。
そこは焼き鳥屋だった。冒険者が狩ってきた魔物――特殊な調理をして毒を除去している――や獣を捌いて焼いている。ジュッーという肉が焼けるいい音がする。匂いも漂い食欲をそそられる。
「それともガッツリ食べたいなら『アールンナイツの宴』がおすすめです。あそこはぶ厚い肉のステーキで有名で、高ランク冒険者御用達です」
「ほほぉ、それもいいな。ガリアはどうする?」
『ステーキだ!』
「よし決めた。そこの『アールンナイツの宴』に行こう。案内してくれ」
「「了解です、ボス!」」
私は二人の案内に従って店に向かう。
「ここが『アールンナイツの宴』です」
どっしりとした店構え、心なしか威圧感を感じる。店前にまで肉の焼ける匂いが漂う。店前には若い冒険者たちがよだれを垂らして店内を覗いている。高ランク冒険者だけという暗黙の了解というものがあるかもしれない。ただ単に金がないだけかもしれないが……
二人もこれから夕飯だそうで一緒に食べることにした。
「なあこれガリア通れなくないか?」
店の扉は私からすれば十分に大きい両開きの扉。
だが体の大きいガリアからすれば一回り二回りも小さい。
「困った。これではガリアだけ店先で留守番に……」
『それならばこうすればいい!』
それは困る! とガリアは変身した。現れたのは小さな――いや一般的な大きさの――狼だった。
『これならば多く食べられる!』
「おぉ、そんなこともできたのか」
『通常の獣化に比べれば魔力の消費は大きいが背に腹は変えられん』
そこまでして肉が食べたいようだ。
ともかく問題は解決した。
早速店内に入るとしよう――。
◇◇◇
「はぁ〜美味かった!」
『俺は満足だ! だがクルシュ殿の料理に比べれば劣るがな!』
私たちは極上のステーキを堪能し、店を出る。
さらっとガリアは嬉しいことを言ってくれる。
「二人ともありがとな」
「いえっ、ボスのお役に立てれば幸いです!」
私は二人と別れ夜の街を観光する。
この街は見ているだけでも面白い。
飲み屋街や宿屋近辺は多くの冒険者で溢れかえり、今日の成果でも喜んでいるのか笑い声が聞こえ、今日の成果はあまり良くなかったのか愚痴を吐き、客ぶりの良さに上機嫌になっている店主もいて。人々の日常がたくさん詰まっていた。
片や住宅街はほのかな明かりがポツンポツンと光っておりそれ以外はシンと静まり返っている。
寝静まっているのか家族と団欒を楽しんでいる静かな住宅街と、仲間と笑い叫び喧騒が聞こえる飲み屋街。
明と暗。
動と静。
全く異なった姿をしているがそれらは二つで一つ。
私はそんな光景を時計塔の屋根から見下ろしていた。片手には結局買った焼き鳥と、もう片手には屋台で売られていたリンゴジュース。ガリアも焼き鳥をうまうまと頬張っている。
(幸せだ……)
私は異世界に憧れていた。笑い声が絶えない異世界に、辛く大変な時があってもそれを乗り越えて明日を生きる冒険者たちに。
私はこういうものが見たかったのだ。
私の性格は変わってしまったが憧れは変わっていない。そのことに安堵した。
私は屋根に寝転がり空を見上げる。
満点の星々。
日本では中々見られなかった夜空だ。
私は感慨に耽り、無意識にガリアを撫でる。
ガリアはちょうど焼き鳥を食べ終えていたのか寝転がり気持ち良さそうに喉を鳴らす。
まだまだ夜は始まったばかりだが、宿に戻ることにしよう。
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