63ロリ 時計台前広場


「よし、着いたぞ――ってどうしたんだシルヴィ」

「……ばか」


 時計台前広場に面する建物の屋根にたどり着いた。それまでずっと静かにお姫様抱っこされていたシルヴィは顔を真っ赤に染め目を合わせてくれない。小さな声で罵倒だけするともぞもぞと動きだし、お姫様抱っこから逃れる。

 もじもじとしおらしく立っているシルヴィ。


「行くよ」


 特に何も言われるでもなく屋根から飛び降りる。

 少々目立ったが気にしない。気にしては負けだ。


「で、ここを選んだのは何でだ?」

「えっと、今武闘祭中でここに屋台が多く集まってるのと時計台の頂上からの景色が綺麗だからって聞いて」

「そっか。なら先に屋台を見ようか」

「うん……」


 本当に静かなシルヴィ。いつもはしつこいくらいに構ってこられたがこうも静かだと少し寂しいような気がする。

 まあそれは置いておいて、屋台だ。屋台はここの広場を埋めるほど立ち並んでおり、人も多いため広場の密度は高い。第二試合が終わって人が流れ込んできたのもあるだろう。

 屋台は焼き鳥やウインナー、クレープ、ジュース、酒などの飲食だけでなく、くじ引きやお土産屋などの娯楽・観光の屋台があった。お土産屋に売られているものはどれもが私にとっては目新しく映り、視線の移動が多くなる。


「ふぅ、クルシュ、一回落ち着いて。一つずつ見てくからさ」

「おおそうだな」


 シルヴィは羞恥から立ち直ったのか私の手を握り一店舗ずつ見て回っていく。

 鉄製の小物やガラス細工らはこの世界にとっては最先端の技術を利用して作られており、アクセサリーやガラスのペンなどが売られていた。中には宝石をガラスで囲ったアクセサリーもありとても面白い。


「これは、二つで一つ?」


 私は数多くの商品の中からとある物を見つける。それは二つに割れていた貝で、その両方に紐が付けられているアクセサリーだ。


「おお、いらっしゃい。それは『割れ貝』って言ってね。こうすると一つになるからどんな時でも一緒っていう意味があるのさ。夫婦だったり親友がよく買ってくね」

「ほぉ、どんな時でも一緒に、か」


 これをシルヴィと一緒に持つというのも良いのではないだろうか。


「これって確かアルテカ公国発祥だったよね」

「お、よく知ってるね――ってシルヴィちゃんじゃないか。てことはその子がクルシュちゃんかい」


 店主はようやく私たちの正体に気づくがそれほど騒がない。周りに考慮したのだろう。

 私は聞き覚えのない国に疑問を抱く。


「アルテカ公国?」

「うん、アルテカ公国ってのはアルテイル帝国の南西にある国でね、海に面しているから海産物が有名なんだよ。ボクは行ったことないけどいつか行ってみたい国だよ」


 シルヴィが説明してくれる。


「これを一つくれ」

「はいよ、銀貨一枚だよ」


 私は余っていたなけなしの銀貨を払い購入する。

 そして片方をシルヴィに渡す。


「ほれ、シルヴィも」

「ボ、ボクも?」

「当たり前だろ」


 分霊なのだから元は一つだ。そういう意味でもこの『割れ貝』はちょうど良い。

 シルヴィはそれを受け取ると大事そうに首にかける。私も自分の首にかける。


「ずっと一緒だからねクルシュ」

「当たり前だシルヴィ」


 私たちはそれからゆっくりと広場の屋台を見て回る。

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