26ロリ 冒険者ギルド

 ギルドは喧騒に包まれていた。

 長いカウンターでは冒険者たちが依頼の報告や受領をしている。

 併設されている食事処では酒やつまみなどが提供されており、多くの冒険者たちが丸机を囲んでいる。パーティーの者が多く、ただ座っているだけや、昼から飲んでいる人もいる。座っているだけの人はこれから依頼にでも行くのか話し合っていたりしている。

 そして、二階も食事処なのか吹き抜けを通ってザワザワと声が聞こえる。


 冒険者たちは無意識に、勢いよく開け放たれた扉を見て、原因が私であると気付く。そして少し目を見張っている。


 ――幼女だ


 冒険者たちの胸中はそんなところだろう。

 ここでも視線が集まる。

 しかし私はそれを気にせずカウンターに向かう。


「冒険者登録したいんだが、いいか?」


 私はカウンターの前で受付嬢に話しかける。


「あれ? ああやっぱり私疲れてるんだ。皆んな私を頼りにして仕事押し付けてきて最近残業ばっかりだし、休日? なにそれ美味しいの? はははっ」


 期せずしてギルドの闇を知ってしまった。

 私は再度呼びかける。


「お〜い、いいだろうか?」

「ついに幻聴まで聞こえるように……今日は早く帰って早く寝よ」

「むぅ」


 確かに私は身長が低い。幼女だもの。

 このカウンターは意外と高く、ギリギリ私を隠してしまい座っている受付嬢からは私が見えていないらしい。


「おいここだここ」

「えっ?」

「下だ、下」


 私は手を振って主張する。

 身を乗り出した受付嬢と目が合う。

 やっと気づいてくれたようだ。


「どうしたのかなお嬢ちゃん。迷子かな?」


 受付嬢は先ほどまで文句たらたらで疲れ切った顔をしていただろうに、一瞬で笑顔になる。これが接客スマイルか。プロだな。

 そんなことより私は迷子ではない。


「冒険者登録をしたい」

「……えっ? 今、何て?」

「だから、冒険者登録をしたい、と言ったんだ」


 信じられない! と言った顔で驚く受付嬢。


「お嬢ちゃん、冒険者は危険なお仕事なの。後十年経ってからまた来なさい」

「そういうのはいいからさっさとしてくれ」

「むぅ、あなたのためを思って言っているのよ? そういえばあなたの親御さんは? こんな小ちゃい子を一人にさせるなんて、注意させなきゃ」


 私は見た目幼女だ。中は十七の男だが、それを知らないものが見ればただの可愛い女の子である。

 それならば必然、「冒険者登録をしたい」という私は冗談を言いに来たと受け取れるのも仕方ない。

 ……仕方ないのだが、これはかなり面倒くさい。


「いいか? 私は今年で十七だ。実力もそこらの冒険者なんか敵じゃない」

「えっ、じゅ、十七っ!?」


 門番と同じような反応を示す受付嬢、とそれを聞いた近くの冒険者たち。


「冒険者は成人していれば登録できるんだろ?」

「あ、はいそうです、けど……」

「なんだ?」

「本当に成人しいているんですか?」

「ああ本当だ」

「そうですか…………あ、自己紹介が遅れました。私はリーネと申します」


 あなたは? と言葉を発さずとともそう問われているのがわかる。


「クルシュだ」

「クルシュちゃん、いい名前ですね」

「またクルシュちゃんか……」

「どうしました?」

「ちゃんはやめてくれ」

「はい分かりましたクルシュさん。それでは今から冒険者登録の準備をするので少し待っていてください」


 受付嬢のリーネはそう言って水晶を持ってくる。カウンターは高いのでカウンターの目の前に持ってきてくれる。


「まずはこちらの水晶に血を一滴垂らしてください」


 私は渡された針で指に刺し、言われた通りに血を一滴流す――つもりが針がポキっと折れてしまった。どうやら私の肌が硬すぎて針が通らなかったようだ。いや私の肌はモチモチなのだ。ただやわな攻撃は効かないというだけなのだ。


「えぇ、不良品だったんですかね。もう一つ持ってきます」


 彼女はそう言ってもう一本針を持ってくる。

 そして再び指に刺す。折れる。

 「あっれれー? おっかしいぞー?」と不思議そうに小首を傾げる受付嬢。


「はぁ、これでやるか」


 私は背中にかけていた刃折れの剣を取り出す。

 そして指に切り傷をつける。

 切れた。血がドクドクと流れるぐらいに切れた。


「きゃーーー!? 大丈夫ですか!?」

「しまったやりすぎた」


 手加減を間違えたようだ。青白かった水晶が赤に染まる。

 傷自体はすぐに治る。

 だが血が地面に垂れている。まあ少しなのでいいか。


「あ、まあ登録はできました。カードを発行しますので少々お待ちください」


 さすがは受付嬢。顔を引きつらせながらも何とか落ち着きを取り繕って次の作業に取り掛かる。

 その間に私は剣を鞘に納める。そして数分ばかし待つ。


 改めて周りを見渡すとかなりの冒険者たちが私に注目していた。さすがに幼女だからか欲望に染まった男はいない。幼女に欲情するならロリコン認定だ。兵士にお世話になるといい。

 さてそんな男たちや女たちは皆微笑ましそうにしていた。小動物を愛でいることに近い気がする。


「お待ちいたしました。こちら冒険者カードです。クルシュさんはまずは駆け出しの黒曜オブシディアン等級からスタートです」


 そう言って彼女はカードを私に手渡す。

 冒険者カードと言われたカードは黒色だった。


「冒険者のランクは五つに分かれており下から、黒曜オブシディアン等級、ブロンズ等級、シルバー等級、ゴールド等級、そして最高等級の白金プラチナ等級となっております」


 私はさっき受付嬢が言った通り駆け出しの黒曜オブシディアン等級だ。


「ランクは依頼の達成数や実力によって昇格されます。シルバー等級以上は指名依頼というものがあり、報酬が高く個人に指名された依頼が来たりします」


 私はできるだけ受けたくはないな。


「拒否もできるのか?」

「はい、諸事情によってできない場合もありますので拒否権はございます。そして次に緊急依頼というものがあります。それはカードを通して冒険者の皆様に一斉通達されます」


 カードにはギルドからのメールを受け取る機能もあるようだ。送る機能はないようだが。


「その場合は何があっても集合場所に集まってください。本当にやむを得ない場合は仕方ないので後日事情を聞きますが面倒だから集まらなかった、といった場合は等級を一つ下げさせたりなどの降格処分が下されます」

「その緊急依頼はどんな時にくるんだ?」

「それは魔物が襲撃に来たときや冒険者皆様の力を合わせなければ街に甚大な被害が及ぶような緊急事態の時です。別の街に行くときは必ず現在滞在している街のギルドに言ってください。そして街に着いたらギルドに行ってください。その街でのメールを受け取れるようにしなければならないので」

「ああ、分かった」


 まあ要は緊急の時は街を守れというものだ。


「また困ったことがありましたらギルドに相談したり他の先輩冒険者たちを頼ってください」


 周りの冒険者を見ると「任せろ!」と意気込んでいる。頼られる気満々だ。まあ困ったことがあれば聞くとしよう。


「依頼はあそこのボードから受けるものをカウンターに持ってきてください。そして受付嬢がはんこを押して依頼は受理されます」


 ボードの前にはそれなりの冒険者たちが依頼を吟味している。

 カウンターではそれなりの数の冒険者が依頼を受理していた。


「以上で説明は以上になります。どうか安全第一に頑張ってください」

「ああ、ありがとな」


 私は早速依頼ボードを見ようとした時、テンプレが起きた。


「おいおい、いつからここは幼稚園になったんだぁ?」


 緑色と赤色のモヒカンでピアスをつけた、いかにも「チンピラです」と主張している二人の男が現れた。

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