30ロリ 偉業?


「こほんっ。すみません取り乱しました」

「ああ、別にいいよ。美味いなこれ」


 私は応接室に通され、出された茶菓子を遠慮なくいただいている。


「それで改めてお聞きしますが、あれは本当にあなたが討伐したものですか?」

「ああ、そうだ」

「百体もですか?」

「ああ。危なかったな、もう少し遅かったらあの村滅んでぞ」


 リーネはまさに信じられないと言った顔だ。


「分かりました。もし本当にあなたがあれらを討伐したのなら、あなたは何者ですか?」


 予想通りの質問がされる。見た目幼女の私が、まだまだ駆け出しの私が、ゴールド等級でも苦戦しそうな数を私は無傷で討伐したのだ。

 さすがに「私が森の王です」と言うことはできないので押し黙る。


「……まあ私が何者であれお前たちの敵にはならんさ」

「そうですか」


 リーネはこれ以上詮索することはできないとみたか広げていた書類を片し出す。


「ああ、そういえばクルシュさん。今回あなたを特別に昇格されることが決定しました」

「昇格?」


 私はリーネに聞き直す。


「はい、ここの支部長権限で黒曜オブシディアン等級からシルバー等級への昇格です。あの数のゴブリンを、ましてジェネラルやロードもいる群れを無傷で討伐されましたのでまだ黒曜オブシディアン等級でいることはおかしい、とのことです。本音をいうと監視をする意味合いもありますでしょうが」

「そうか」


 私は初の依頼にて上から三番目、シルバー等級へと昇格を果たした。おそらくギルド史上初の偉業だろう。

 そう思っていたのだが――


「あなたで二人目ですよ、初の依頼で一気に昇格したのは……」

「なにぃ?」


 ――すでにいたらしい。

 誰だ? 誰かは知らんがおそらくは私と同じような実力だろうか。いやさすがに私と同等はないか。だって私世界最強だし。そんな世界最強クラスがもう一人もいたらたまったもんじゃない。物語の中にチートな勇者が二人もいるようなものだ。あり得ない。


「実は去年、ここ帝国の帝都に化け物じみた少女が現れたんです。初の依頼で盗賊団を壊滅させたそうですよ。しかもその盗賊団はアルバル盗賊団という、帝国から指名手配をされている極悪な犯罪者や元帝国騎士までもが集まっている盗賊団でして、帝国もギルドも長年手を焼いていました」

「それをたった一人の少女が壊滅させた、と」

「はい」


 本当に誰だよ。

 ゴブリンの群れを倒した私より目立つじゃないか。箔が付くのは盗賊団を壊滅させた彼女の方だろう。


「しかも――」


 彼女の偉業はまだあるらしい。


「――彼女はつい数週間前に、実に数百年ぶりの白金プラチナ等級に昇格されました」

「おぉう」


 私より主人公してやがる。帝都に行ったらぜひ会ってみよう。

 私は最後に茶菓子を食べ、席を立つ。


「じゃあまた明日来る」

「はいお金を用意してお待ちしております」


 さすがにあの数の依頼の報償金は依頼主とは別にギルドからも支払われるようで明日支払われるという。さすがに即日支払いは無理か。


 私は階段を降りて換金所へ向かう。

 ホールに出た際やはりというべきかめちゃくちゃ注目される。

 私はなんとか気にしないようにして換金所のカウンターに魔石を出す。

 これはゴブリン百体分の魔石だ。ジェネラルは普通のゴブリンの二倍ほど大きく、ロードのは私の拳二つ分ほどの大きさだ。


「換金を頼む」

「はっ、はい承りました。しばらくお待ちください」


 あまりの数に換金所の係員も引いている。

 そして数人がかりで換金作業を始める。

 私はその間併設されている食事処のメニューを見る。


『クルックルの串焼き 銅貨二枚』

『バイソンシチュー 銅貨五枚』

『鳥定食 銀貨一枚』


 などなど、十数種類のメニューがあった。酒のつまみが多いがそれ以外にも美味しそうなものが多い。

 そうこうしてメニューを眺めていると換金作業が終わったのか、係員に呼び出される。


「申し訳ございませんクルシュ様、今ここにはこれだけしか残ってないんです。明日にはきちんと全額お支払いしますから今日はこれだけで勘弁ください」


 換金所の係員全員が深々と頭を下げて金貨五枚を渡される。

 どうやら先ほど大物を倒した二人の冒険者が換金に来たようだ。


「ないならないで後日でも構わんぞ?」

「ありがとうございますありがとうございますっ」

「できるだけ早くお支払いいたしますっ」


 私はとりえず金貨五枚を受け取り、宿へ向かう。

 ギルドを出ると空はすでに暗くなりつつあり、夜が来ようとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る