幼女無双 〜最恐の幼女は異世界で嗤う〜

シュタ・カリーナ

1章 世界最恐の森編

1ロリ 始まり

 人々が『世界最恐の森』と恐れる森の深奥にて、十歳ほどの幼女と世界最強種たる神龍が対峙していた。


 鳴り止まぬ轟音、荒れ狂う森の木々、そしてそこかしこで爆炎が立つ。さらには核爆撃のような魔法が龍から放たれ大気を震わし、各所で大きなきのこ雲を作る。

 それによって木々が吹き飛び激烈な衝撃が発生するも、幼女は動揺の表情を見せず、龍に極大の魔法をお見舞いする。

 そして再び熱波と衝撃波が森をかけ巡る。


『ふははっ! やるなぁ、人間っ! これはどうだっ!』

「……さっさと帰ってくんない?」


 一人と一匹の戦闘は、半径200kmを跡形もなく消し飛ばし、地面が顔を見せているほどに激烈なものだった。幼女が隕石を降らせクレーターを作ったり、神龍がゴ○ラの内閣総辞職ビームのような魔法をぶっ放して森を火の海に変えたりして、森は天変地異な有様となっていた。

 それほどの激闘を幼女と神龍が繰り広げていた。


 なぜ幼女と神龍が戦っているのか。

 それを説明するには数ヶ月ほど前に遡らなければならない。


 ◇◇◇


「なんてこった」


 俺、いや私は幼女に転生(?)してしまったようだ。今湖面を見て確認しているのだが、どこからどう見ても幼女だ。手で触れて確認してももちもちとした柔らかい感触に丸い顔。

 幼女という事実に変わりはなかった。


 私は普通に男子高校生として何気ない日常を送っていたはずだが、授業中に強い目眩に襲われたと思えばこんな姿で森の中にいた。もはや意味がわからない。

 私は幼女として生きていかなければいけないのか?

 夢ということは……


「いふぁい……」


 頬を抓ってみたが痛いので現実だろう。というか柔らかいしすべすべだ。今気づいたが声もいつもと違い高い声だ。私じゃ無い誰かが話しかけてくるような違和感を感じる。


 次に私は目線を下に下ろす。

 私は何故かブカブカの服をきていた。しかし私が注目しているのはそこではない。私が注目しているのはブカブカの服で隠れている小さな胸だった。


(自分のなら、触っていいよな?)


 私は恐る恐る胸に触れる。


ポフッ

(……だよな。知ってた)


 幼女だから胸はほぼなかった。

 小さな丘があるだけだった。

 これが貧乳の虚しさか。いやこれから成長期に入るかもしれない。入るだろう。って私は何の心配をしているんだ。


 そろそろ落ち着いてきたので私の容姿を再確認する。

 目の前の湖を覗き込む。


(湖を覗く時、湖もまたこちらを見ているのだ、なんてな)


 冗談はともかく白く長い髪に金色の瞳、小学生低学年ほどだろうかとても可愛らしい少女、いや幼女がそこには写っていた。


 可愛いな。


 私は自分の美貌に満足する。誰が見ても美幼女と判断するのではないだろうか。

 そして湖に写っている自分に向かって、


「よし、私はこれから『クルシュ』として生きよう」


 自分に名付ける。

 前世の頃の名前は覚えているのだが男っぽい名前な上に異世界感が一つも感じられないからつけてみた。

 ちなみにクルシュという名に意味はない。パッと思いつき、名前が単に可愛いかったからだ。


(さて、そろそろ現実逃避をせずにこの状況を考えるか)


 これは転生したのか? 召喚されたのか?

 もし転生ならテンプレなはずの神に会ってないのだが。

 というかそもそもここで何をしろと?

 まずなぜ幼女に?


 疑問が尽きない。


 そんなことを考えていると茂みから物音がした。

 私は突然のことにビクッと体を震わせ、身構える。


ガサガサ

「クルァ?」

「……お、おぉう」


 現れたのは私ほどの大きさの黒い熊だった。

 しかし熊と言うには少々おかしい。

 私の今の身長はわからないが私と同じ大きさと言うことは子熊だろうか。それはいい。問題なのは成長途中であろう牙や爪が確認できたことだ。短いなら普通の熊だったのだが異様に長く鋭い。

 さらに子供というにはとても凶暴そうな顔をしていた。


 その熊はのしのしっと私の元まで近づいてくる。


「オオー、ユーはミーに何するの?」


 パニクって日本語に英語が混じってしまう。何語だ、これ。ルー語か?

 そして気がつけば熊はなんと、片手を振り上げていた。


 私は無我夢中で後ろに走り出す。

 あれはダメだ。私をおもちゃとしか見てなかった。あのままでは遊ばれて殺されてしまう。私はそのことを本能的に悟る。


 私は出来るだけあいつから離れる。幼女の足では逃げられる距離などたかが知れているが、何もしないよりはいい。

 運良く、あの熊も追ってきていなかった。

 逃げ切れるっ。


 しかし現実は残酷だった。


ドシンッ

「……ん?」

「……グルァ?」


 何かにぶつかる。

 私はゆっくりと視線を上に上げる。


「……うぽぁ」


 先ほどの熊の親だろうか、大きな大きな、それはもうとても大きな熊が突っ立ていた。

 木の樹冠頂点まであるその巨躯。

 先ほどの熊とは比べ物にならない、鋭い爪と牙。

 真っ黒な体毛に覆われており、奴は私を餌を見るような目で見下ろしていた。


 戦ったことなど人生で一度もないが分かってしまう。

 奴が絶対強者だと。


 私は腰を抜かして座り込んでしまう。

 ちびったかも知れない。

 私は声も上げることもできずに呆然としていた。


(大丈夫だ。おそらくこれは異世界転生。それなら私は主人公。主人公が初っ端から絶望とか酷いことはされない、はず)


 私は大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせていた。

 そうでもしなければ、今までの高校生活では経験したことがない、とてつもない殺気で発狂しそうだったから。


 奴は腕を振り上げる。


(私は、ここで死ぬのだろうか)


 私は無意識の内に涙を流し、走馬灯を見る。


(短い人生だったなぁ。異世界に来たんだし無双とかしたかったなぁ)


 私はただ奴の挙動を見ていた。

 振り上げた手を思いっきり振り下ろす。

 私は左肩から鋭い爪で斜めに切られる。

 胴体とお別れすることはなかったが、かなり深く抉られたのか血が勢い良く吹き出す。


「うぐっ、ああ゛っ――」


 私は激しい痛みと燃えるような熱さに耐えながら、徐々に視界を閉ざしていく。


 私が最後に見たのは、狩りをしている熊と鮮やかな血の噴水だった。






 そして私は死んだ。






◯作者より

 面白いと僅かでも思ったらぜひ評価応援お願いします。

 気に入った、続きが読みたいと思ったら作品のフォローお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る