53ロリ 愛剣

 翌日、私たちはイルヴァハーン工房に剣を受け取りに来ていた。

 ソルジュは新しい剣が楽しみなようで鼻歌を歌っている。鼻などないが。


「出来てるかー」


 私は扉を開けると同時にジシスに尋ねる。


「おう、出来てるぜ」


 ちょうどジシスは店内で新しい剣を持って待っていた。

 鞘は黒く、柄も黒いので全体的に黒い印象だ。だが私の男心をくすぶる。だって前世は男子高校生だったもの。


「これがお前さんの新しい剣だ。大事に扱いな」

「おお、ありがとな」


 私はジシスから剣を受け取る。それは大人から見れば短剣の部類に当てはまるのだろう。だが私からすれば程よい大きさであり長さである。

 ずっしりとした重さが手にかかる。だが私が扱うにちょうどいい重さだ。

 柄を握る。私の小さな手にしっかりとフィットする。


チキ


 鞘から剣を半分ほど抜く。

 青みがかった黒色の剣身が姿を現す。その剣身は光を反射し、うっすらと私の顔を写し出す。


 これは両刃の剣だ。刀のような片刃はかっこいいと思ったのだが、今ソルジュが憑いているこの剣は両刃だ。今まで両刃で使っていたものを片刃に変えると言うのは多少使い勝手が違ってくるらしいので、私は両刃を採用した。


「中々いい出来だろ? なにせこの俺が本気で打った剣だからな。将来英雄になるかもしれねえ嬢ちゃんの愛用の剣だ。張り切らねえわけがねえ」

「重宝させてもらう」

「ああ、手入れは怠らないようにな」

「分かってる」


 私はしばらく剣を眺める。


「おおそうだった一つ言い忘れていた。その剣の名前だ」

「名前?」

「ああ、その鞘を外した剣身に名前が彫ってある」


 カチッとジシスは鞘を外す。


「……『黒龍』」


 私は剣身に彫られた名前を読む。


「そうだ。その剣の名前は『黒龍』と言う。黒龍のように黒い剣心と、龍の如き力強さと頑丈さ、そして鋭い爪の如き切れ味……まさしく『黒龍』だ」


 ジシスは鞘を元に戻す。

 『黒龍』という名前――私の男心をさらにくすぶってくる。


「かっこいい名だな」

「だろ?」

「ああ、とても気に入った」


 私は予想以上の出来に満足する。

 ソルジュの反応を見てみると、『おぉめっちゃかっこいいです! これが私の新しい剣……』と興奮気味だ。

 だけでなくシルヴィやガリアも素人目ではあるがかなりの一品だと見抜き目を見張っている。


「で、お代だが、金貨百枚だ」

「おぉう……」


 分かってはいたがこれは中々高い。帝国からの報酬がまるまる飛んだ。

 だがまあ、これからギルドの依頼などで稼いで行けばいいだろう。武闘祭の出演料も貰えると言う話だ。それにそもそも今はそれほどお金を使う場面は少ない。ご飯は、最悪シルヴィに奢って貰えばよろし。


「ねえ今、ご飯はボクに奢って貰えばとか考えなかった?」


 私の心でも読んだのかシルヴィがそんなことを耳元で囁く。


「ああ、考えたぞ」

「はあ。まあいいよ」


 素直に言ったらOKだった。よしこれからどんどん奢ってもらおう。


「これで金貨百枚だ」

「ひぃ、ふぅ、みぃ………………よしちょうどだな」


 ジシスは金貨百枚をちょうど受け取る。


「じゃ、私たちはこれで」

「ああ、また何かあったら来い」


 私たちはイルヴァハーン工房を後にする。



 ギルドの屋根に私たちはいた。

 新しい剣にソルジュが取り憑くのを一般人に見せないようにするためだ。側から見れば何もしていないように見えるがもしものことを考えてだ。


 刃折れの剣と『黒龍』を近づける。すると刃折れの剣が淡く光り出し、続いて『黒龍』も光り出す。そして淡い光が消えると刃折れの剣は粉々に砕け散る。

 そして『黒龍』が再び光り出し――


『これからソルジュのターン!』


 ――ソルジュが変なことを言い出す。

 まあ無事憑けたようだ。


「問題はないか?」

『はい! 絶好調です!』

「そうか、それは良かった」


 今までよりも元気に返事をするソルジュ。

 『黒龍』の方もソルジュに憑かれても問題はなさそうに見える。元々使っていた剣の方は柄しか残っていないが、まあもう使わないのでいいだろう。いつか捨てるとして今は異空間収納に入れておこう。


「あ、クルシュも異空間収納使えるんだ」

「ああ、もちろんだ。シルヴィも使えるだろ?」

「もちろん! 賢者の弟子だからね!」


 ドンと胸を叩き胸を張る。


「はいはい、さすがさすが」

「何、その反応、もう少し褒めてもいいのに……」


 シュンとするシルヴィ。

 はぁ……。


「ほらこれでいいか?」


 私はシルヴィの頭をよしよしする。


「うん、えへへ」


 にやけるシルヴィ。

 こうして近くで見ると意外と可愛い。普通に美少女だ。胸はないが。

 えへへと笑う顔はついつい見つめてしまう。ようく見るとただの可愛い女の子だ。胸はないが。


「ありがと、クルシュ」

「ああ」

「ところでさっき失礼なことを考えなかった?」

「……いや、何も?」

「今の間何?」


 たまに鋭くなるのは何故なんだ。


『クルシュさん! 一狩り行きませんかっ!』

「ふむ、まあ試し斬りということで行くか。ちょうどギルドの上にいるし。依頼を受けていこう」

『久しぶりに俺も暴れるとしよう』

「ならできるだけ高ランクの依頼にしよう」


 私たちは屋根から飛び降り依頼を受けに行く。

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