53ロリ 武闘祭の前に

 今回はいつもより長いです。

 そしていよいよ武闘祭です。前話から三週間が経ちました。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 帝国で開かれる『武闘祭』――。

 それは世界で最も有名な戦いのショーであり、最も大規模な祭りである。


 毎年この時期になると帝都のコロシアムで開かれ、世界各地から出場選手や観客が集まる。そのためこの時期は帝都はいつも以上に人で溢れ返り大きな賑わいを見せている。


 武闘祭は全部で一ヶ月間。最初の一週間は前週祭で参加者達の健闘を祈り、次の五日間は予選を行い、次に十日間本戦を行い優勝者を決め、最後の一週間は参加者たちの健闘を祝う。

 予選では全参加者のおよそ二千五百人を百人ずつ、二十五グループに分け、大乱闘を行う。そして生き残った五人だけが本戦に勝ち上がれる。予選はいわば前戯である。

 本戦では勝ち上がった百二十五人と数人のゲストが一対一で戦うトーナメント式。毎年苛烈な戦いが繰り広げられており祭りで最も注目される戦いだ。

 そして今年は上位五名が武闘祭特別ゲストである私クルシュとシルヴィと戦うことができる。その事は既に参加者や観客たちに知らされているため、より一層注目されている。


 さて今日は武闘祭予選初日である。

 私とシルヴィ、ガリアは特別ゲスト席からの観戦である。特別ゲスト席と言ってもコロシアムの特一級観戦席と言う、帝国皇帝やその家族、各国王家などの超重鎮らのための席を使っている。つまりは私たちは超重鎮扱いだ。

 この特一級観戦席は他の席とは違い屋根が付いていたり豪華なソファやテーブルがあったりとまるで城の一室のような場所となっている。ちなみにコロシアムには屋根は付いておらず直射日光が観戦席や闘技場に当たるため非常に暑い。だがどうやら今年から屋根代わりとして大きな布をかけて日光を遮っているためそこまで暑くはないらしい。


「初めまして、私が白金プラチナ等級のクルシュだ」


 私は特一級観戦席にてその場にいる者に向けて自己紹介をする。

 この場には私とシルヴィ、ガリアの他に帝国皇帝とその妻、そしてその息子と娘が一名ずつ、さらにクロイシュ皇国の皇帝が来ており、彼ら彼女らのお付きとして一人ずつ側近がいる。私とシルヴィには側近として帝都の冒険者ギルド支部長フラン・ロールスイスがいる。


「貴様が例の……」


 そう言葉を漏らしたのは帝国皇帝アッガース・プロイツ・クロイツ・ヴァン・アルタイルである。筋骨隆々としておりよく鍛えられた肉体だ。実力主義の皇帝らしい。

 アッガースは私を見定めるようにして体の隅々まで見る。シルヴィとは既に会ったことがあるのだろう。シルヴィには一つも目を向けない。


「初めまして、私がクロイシュ皇国の皇帝メルヘヴン・ガルダード・フォン・クロイシュだ」


 そう横から口を出してきたのは皇国の皇帝だった。メルヘヴンはアッガースとは対極的な男であった。筋肉など一つもついていない優男といった風貌だ。メルヘヴンは魔法が使えるのだろうか。

 メルヘヴンは手を差し出している。握手をしようと言うことなのだろう。私は仕方なく握手をする。メルヘヴンの手は私の手を優しく包み込む。

 続いてシルヴィとも握手をする。シルヴィは握手をすると同時に軽く自己紹介をする。


「俺がアルタイル帝国の皇帝アッガース・プロイツ・クロイツ・ヴァン・アルタイルだ。まずはアルバル盗賊団を壊滅させたことに感謝する」


 見定めが終わったのかアッガースは自己紹介をし、私に手を差し出す。握手をする。アッガースはの手はゴツく私の手をガシッと力強く握る。私も強く握り返す。するとアッガースもさらに強く握り返す。そして私も強く……。


「……」

「……」


 ギチギチと手が潰れるほど強く握り続けて見つめ合う私とアッガース。


「……降参だ」

「なんだ、もう終わりなのか」

「その細い腕のどこにそんな力があるのか」


 先に負けを認めたのはアッガースであった。いててと手を擦る。それほど強くは握っていないのだがなぁ。


「ほぉ、あのアッガース殿に握手で勝つとは、クルシュ殿は相当お強いようで」


 メルヘヴンが言う。どうやらアッガースは力の強そうな人と握手をして勝負(?)をするらしい。


「ほら、あなた達も挨拶しなさい」


 皇帝の妻アウレリファに言われ少女と少年が前に出る。


「初めまして! 僕がオルグ・ヴァン・アルタイル。帝国皇帝陛下の息子だ!」


 帝国皇帝の息子というオルグは十歳程だろうかまだまだ小さい(とは言っても身長は私と同じぐらい)。しかし父から言われているのか威厳を示すように胸を張って堂々としている感を出してるところがまだまだ少年らしい。


「ああ、お前中々可愛いな」

「クルシュさん……」


 私はオルグと握手をする。おや、アッガースやメルヘヴンと握手はしたがこいつとはしなくてもよかったか? まあいいか。

 オルグは私の手を見つめ頬を少し赤らめる。


「……って僕は可愛くない!」


 可愛いと言われたことにようやく反論するオルグ坊。プンスカ怒っている。


「オルグ、静かになさい。威厳がありませんわよ」


 少女がオルグにそう言うとオルグは途端に静かになる。


「初めまして、わたくしがソフィア・ヴァン・アルタイル。帝国皇帝陛下の娘ですわ」


 帝国皇帝の娘だと言うソフィアはスカートの裾を持ち上品にお辞儀をする。二十歳前後だろう。ふくよかな胸は母親譲りか。顔も整っておりまさしく美少女であった。あんな筋肉の筋肉の塊のような男から生まれたとは考えづらい。養子か?


「養子ではありませんわ。こほんっ、これでも私、実力をつけるために冒険者をやっておりまして、今はシルバー等級ですわ。以後お見知り置きを」


 銀色の冒険者カードを見せお辞儀をする。こんな箸より重いものは持てません、と言いそうな子がシルバー等級とは、見かけによらないものだ。


「それを貴方が言いますか」

「ん? お前、もしかして心読んでる?」

「あっ、失礼いたしました。私【読心】というスキルを持ってまして注視した人の心を読むことができますの。読まれたくないのであれば私は目を瞑りますわ」

「いやいい」


 私はソフィアが私を見ている言を確認して実験してみる。

 ソフィア、絹のように綺麗な白い髪、とても綺麗だ。顔も神が作り出したと言われても過言ではないほどに美しい。その瞳も透き通った金眼がとても美しい。その胸も、そこのシルヴィとは違ってふくよかだ。しかも強い。お前ならゴールド等級にまで上り詰めれる。二つ名があるなら『白絹シルクの戦乙女』か? それとも『傾国姫』か?


「〜〜〜ッッ!? それっ、私を口説いてますの!?」


 羞恥に頬を赤らめるソフィア。


「はははっ、まあ私が男だったら告白してたかもな」


 まあ前世は男なのだが。


「そ、そうですの」


 ソフィアはこれ以上私の心を読まないためにか私を見つめる事はしなくなった。


「ん? 何してんだ」


 ふとガリアを見るとアッガースとメルヘヴンに詰め寄られていた。

 本当に何してんだ。


「お前、もしかしてガリア王か」

「貴殿はまさか獣帝国のガリア王ですか」


 二人がそう尋ねたのは同時だった。ガリアは私を見る。バラしてもいいかどうかだろう。まあバレたのなら仕方ないし、ここには重鎮しかいない。バレて困るものではない、か。私は頷く。


「ああ、そうだ。俺がユーザック獣帝国国王ガリア・ベリフェルトだ」


 ガリアは獣化を解いて本来の姿になる。

 しまった! 筋肉の塊が二つも!


「おお、こんなところで何してるのだ」

「それを含めて私のことについて話そう」


 この際なので私は森の王などのことについてを一部を伏せつつ説明する。


「なるほど、それで……分かりました。私もできる限り協力いたしましょう」

「ああ、俺もだ。だが、俺らにできる事は少なそうだがな」

「まあ私の便宜を図ってくれたりするだけでいい」


 アッガースやメルヘヴンを味方につける。ガリアにはすぐに獣化してもらった。筋肉は見ただけで暑くなる。

 それから私たちは雑談を交わしていると魔導拡声器でアナウンスが流れた。


『さあさあ皆様! いよいよ武闘祭本大会の開会の時間でございます!』


 そのアナウンスにコロシアム内の喧騒も静かになる。


「いよいよですわ、武闘祭」


 私たちは各自の席に座り開会の時を待つ。

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