38ロリ 道中の談話


「へぇ、あんた普通にすごかったんだな」

「おうよ」


 私は馬車と並走して走っているガリアに乗って、団長と談話していた。

 団長——正式には帝国第三騎士団団長で、名はモール・ブライトネス。騎士の家に生まれ幼少の頃より父から鍛えてられており、二十五という若さで今の地位に上り詰めたという。それより五年経った今では地位は盤石なものとなっており部下からの信頼も厚く、帝国では名の知れた騎士だそうで国王からも好かれているという。


「それにしても魔物がいないな。来る時はよく魔物と遭遇したんだが……」


 団長モールが魔物と遭遇しないことに疑問を感じた。


「確かにそうですね。ここら辺はそこそこ魔物が多いことで知られてますし。珍しいこともあるんですね」


 職員もだ。

 言えない。私が森の王であり、私を恐れてか魔物が寄り付かないなんて、言えるわけがない。


「クルシュ殿がいるからじゃないですかね」


 とある一人の団員が言う。

 ふむ、あながち間違いでもない。


「ああ確かにそうかもな。俺でもクルシュ殿の力の底が見えん」

「そうなのですか?」

「ああ、もし俺がクルシュ殿と戦ったら弄ばれて終わるだろうな」

「それほどですか」

「ああ」


 団員のおかげで話が逸れた。ナイスだ団員。心の中で褒めてやろう。


「クルシュ殿、どうやったらそんな力を身につけたんだ? その従魔もそうだ。俺でも歯が立ちそうにない」

「んー、秘密だ」

「秘密かー、そうなのかー」


 力の秘訣を聞けず残念そうな団長。


「まあ私からお前にアドバイスするとすれば——」

「…………」


 団長は前屈みになって私の言葉に耳を傾ける。


「——魔法戦を意識した方がいいんじゃないか?」

「魔法戦、か?」

「ああ、私の勘だがお前、魔法使いとの戦いに弱いだろ」

「ッッ、ああ全くもってその通りだ。俺は対人の接近戦には強いが魔法使いや魔法を使う魔物とは相性が悪い」

「やっぱりな」


 私の勘が的中した。団長の保有魔力量は相当なものだ。宮廷魔術師に匹敵するのではないだろうかと言うほどだ。しかし魔術適性が皆無だ。子供の方がまだマシなレベルに悪い。まあ皆無とは言っても体内にとどめておくことはできるようなので身体強化などが良いのではないだろうか。

 ちなみに、魔法と魔術の違いはスキルによるものか、そうでないものか、だ。スキルによって発動するものが魔法、スキルを持っていなくても扱えるようにと改良されたのが魔術だ。魔術は魔術適性と魔力さえあれば扱える代物だ。すでに書かれた魔法陣に魔力を注ぎ、詠唱を口にすれば発動する。しかし魔術適性や魔力、あるいはその両方がない場合には一切使えない。団長がその最たる例だ。


 話は戻るがその原因はおそらく遺伝によるものだ。『魔術適性は親の遺伝に関係する』そう言ったのはアルテナだ。両親に魔術適性があったならば高確率で子も魔術適性がある。だが反対に両親に魔術適性がなければ特異体質でない限り一生魔術は使えない。

 団長も魔術が使えるかもと鍛錬してみたのだろう。しかし全く使えなかった。


「どんな鍛錬をしたんだ?」

「そうだな、まずは魔力を操作するとこから、だな。まあ全くできんかったが」


 魔術を扱うにはまず魔力を操作できなければ話にならない。団長はそれすらもできなかったと言う。団長の魔術適性は壊滅的だと理解した。


「どう、教わったんだ?」

「『魔力は感じるんだ! 身体の内に意識を向けろ! ホワホワしたのが魔力だ! 分かったら魔力を操れ! こう、サーってなってガーッだ!』って教わったな」

「お、おぉ」


 誰だその感覚派は。大雑把にも程がある。


「それは教え方にも問題があるな。もしかすると使えるかも知れんぞ」

「おお! 本当か!」


 団長は子供のように目をキラキラさせる。


「そうだな、ここらへんで休憩して行こうか」

「おう。お前ら! ここで一時休憩だ! 周囲の警戒は怠るなよ!」

「「「「了解です!」」」」


 団長が部下たちに声をかけ馬を止める。そして各々休憩を取るように命じる。

 私はガリアから降り団長と向かい合う。そして団長の両手を握る。そして団長の身体に流れている魔力を私が操作する。


「おぉう!?」


 いきなり握ったことに驚いたのか、魔力の流れる変な感じに驚いたのか変な声をあげる。


「わかるか? 今流れているのが魔力だ」

「おぉ、これが魔力か。なんか変な感じだな」

「最初のうちはそう感じるが慣れれば何も感じなくなる」


 団長は初めて感じる魔力に驚きを隠せていない。

 他の団員もなんだなんだと集まってくる。そして『俺もああやって教わったなぁ』『いいなぁ女子に教わって、俺おっさんだったぞ』『俺は爺さんだったな』などと魔術の鍛錬をしたことのある者が懐かしんでいる。ふふっ残念だったな、私はアルテナに教わったぞ。可愛い美人さんだぞ。羨ましいだろ。私は何と張り合っているんだ。


「感覚は掴めたか?」

「ああ、なんとなくだが」

「それでいい。一回自分で操作しようとしてみてくれ」


 私はそう言って徐々に魔力操作を緩める。代わりに団長自らで魔力を操作しようとする。

 そして私が魔力操作を完全に止める。団長は自分で魔力を操作できていた。


「おお、いいぞ」

「すごいな、これ」


 団長は一度操作を止め先ほどの感覚を思い出す。


「はっ、団長っ、ゴブリンで——」

「ん」

ドガンッ


 ゴブリンが近くの茂みから現れたので私は魔法を放ち迎撃する。即死した。


「じゃあもう一度自分でやってみてくれ」

「え、は? 今、何を……」

「ん? どうした?」

「いや、なんでも、ない」


 団長はそのまま魔力操作を行う。



 三十分ほどが経ちそろそろ出発することとなった。

 団長もある程度魔力を操れるようになった。


「モール団長、後は新しい師匠に教えてもらえ。お前に教えてたやつはダメだ、完全な感覚派だ」

「ああ、分かった。まさか俺に魔力が操れる日が来るなんてな」

「良かったな。魔術適性は悪いが、まあ身体強化程度ならできるんじゃないか?」

「ああアドバイス感謝する」


 それから帝都に着くまでの数日、第三騎士団の皆んなや職員たちと仲を深めた。

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