8ロリ 魔物たち
私が森の王となって二週間ほどが経つ。
鍛錬の合間のお茶休憩中に茂みから一匹の魔物が現れる。その魔物とは一角のウサギだった。
私を恐れてか顔だけを少し出してこちらを窺っている。意外と可愛い。
私はウサギを見つめる。
ウサギも私を見つめる。
私はウサギを見て焼きウサギを思い浮かべる。美味しいのだろうか。
ウサギは命の危機を感じてビクッとするも私を見つめる。
私は狙いを定めて――
「っと。なにするんだリリ」
――リリが手で私を制止する。
「あの子を狙っちゃダメなの」
「何でだ?」
「あの子はクルシュに挨拶をしにきただけだと思うの」
「挨拶?」
「そうなの。クルシュが新しく森の王になったからだと思うの。森の王は本来魔物を統率する役目なの。だからこれからもよろしくと挨拶に来るの」
確かに森の王はそう言う役目だった。
だが――
「もう二週間も経ってるんだが?」
「それはクルシュが魔物を喰らって魔物たちに死神って恐れられてたからなの」
ああ、そりゃそうか。喰われたくなもんな。
私はウサギへ殺意をなくす。するとウサギは安心したのか、ゆっくりと、亀のようにゆっくりと近づいて来る。
そしてやっと私の元にやってくる。
『初めまして、新たな森の王様』
「おぉう!?」
まさかしゃべるとは思っていいなかった私は声を上げて驚く。
『一角兎の族長のララです。今回は王様に挨拶をと思いまして。……まず、私のこと食べませんよね』
「ああ、食べないよ」
私は笑って答える。
『本当です?』
「本当だよ」
『本当に?』
「本当だよ。……でも、しつこかったら食べちゃうかも」
『ッッ!?』
ウサギはビクッと体を震わせものすごい脚力で離れる。
「冗談だよ」
「クルシュ、めっなの」
「ごめんごめん、ついな」
ウサギはまたこちらにゆっくりと寄ってきて会話を続ける。
『改めて初めまして。これからも何卒よろしくお願いします』
「ああ」
すると他の魔物が茂みから現れる。
大熊にプテラノドン、炎の鳥、蜘蛛などのこの森に棲まう魔物の長たちだ。
そして順々に挨拶をされる。
大熊の長ザイザ、プテラノドンの長ドードード、炎の鳥の長ファラナ、蜘蛛の長シャシャキ(断じて佐々木ではない)、暗殺スライムの長ピピなど、全部で四十ほどの魔物の長が集まった。
初めて見る魔物もいたが森の辺境に棲む魔物だとアルテナが教えてくれる。喰いたいが、やめておいたほうがいいだろう。非常に喰いたいが、仕方ない。こっそり喰いたいがっ。
そして見ていてわかったがやはり皆んな、私に畏怖を抱いていた。挨拶をする時も近づきすぎないようにしていた。
そして挨拶も終え、魔物たちは一目散に帰っていった。
「というか、なんで魔物が王に挨拶をするんだ?」
「そりゃ、これからも守ってもらうために……」
私の質問にアルテナが答える。
リリは胡座をかいている私の足の上に座り、私の髪をいじってくる。
「だがガジーラは魔物を喰べてたんだろう?」
「いえ、喰べてませんよ」
「え?」
「え?」
沈黙が流れる。
リリは相変わらず髪をいじっている。三つ編みにされているが今は気にしない。
「じゃあ、なにを喰べて生きてたんだ?」
「主に植物と土です」
「は?」
「彼は草食ですよ」
「マジかよ」
信じられるか?
ガジーラ、あんな凶暴そうな顔してたのに、草食だったんだぜ。
おっと口調が。
「彼は基本的に木をまるごと食べてました。たまに土を食べたり、地中に潜って岩盤を食べたこともありましたね」
岩盤て食えんの?
だからあんなに硬かったのか?
「なあ、やっぱり喰べたらダメだよなぁ」
「やめておいた方がいいでしょう」
「そうか。リリももうやめてくれない?」
「えぇ?」
リリは不思議そうな顔をして、私の顔を見る。
それでも髪をいじる手は止めない。
いつの間にか綺麗な三つ編みが二つできていた。
私はリリと一緒に野原に横たわり空を見上げる。
そして徐々に睡魔が私を襲う。
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