9ロリ 獣王襲来

 スローライフを始めて三週間ほどが経った。

 朝昼晩とリリとアルテナと過ごし、体を鈍らせないためにリリと特訓をしたり、農作業をしたりしていた。そしてたまに魔物達が私のところへやってくる。

 あれからというもの、魔物たちとは幾分仲良くなり、よく戯れている。ウサギを抱いたり、大熊のお腹をベッド代わりに寝たりしている。


 そんな呑気な暮らしをしていると、魔物たちは何かを察したのか一目散に森へ逃げていく。

 私もそれを感じ取っていた。

 そして目の前にそれが現れる。


「お前が新しい森の王か?」

「あ? なんだお前」

「なんだ、ただの幼女ではないか」


 大男だった。

 筋骨隆々としておりまさに筋肉の塊。

 そして狼のような獣の耳が生えていた。しかもよく見れば二つの尻尾もある。


「神樹様、ご無沙汰しております。それで本当にこの者が新しい森の王なのですか?」

「うん、そうなの」

「此奴は俺が見る限り弱いですが」

「そんなことないの」

「しかも森の王だというのに人間の小娘ではないですか」

「相当強いからいいの。あと人間辞めてるし」


 勝手に始めた二人の話についていけない。

 そして私は口を挟む。


「で、お前誰」

「この方は現獣王です」

「へぇー、そうか。で、その獣王が私に何のようだ」

「新しい森の王の顔を見に来たが気が変わった。今すぐ俺と勝負しやがれ」

「え、いやだ」

「……」


 断られるとは思っていなかったのか、声が出ず呆然としている獣王。


「ええい、いいから俺と勝負しろ!」

「いやだよ、面倒だし」

「はっ、自分が弱いから逃げるのか?」

「……」

「そうか、逃げるならしょうがないな」

「……私は逃げてない」

「いーや、逃げている。俺との勝負も自分が弱いから逃げたのだ」

「それはただ単に面倒だからだ。そもそも戦っていないのだから逃げたことにはならない」

「屁理屈をっ」

「リリ、面倒だ。家に帰ろう」


 私はリリと手を繋いで家に帰ろうとする、が――


「なっ、貴様神樹様を呼び捨てにっ。許さん許さんぞ! 誰がなんと言おうと貴様は俺が殺してやるっ!」


 獣王はそういうと、リリに当たらないように私を殴る。

 それを私は片手で受け止める。かなりの衝撃が発生する。


「神樹様っ、此奴は神樹様を狙っている悪しき輩ですっ! 俺が必ずや神樹様をお守りいたします!」


 言っている意味がわからない。

 なぜそうなるのだ。

 むしろ私が毎晩リリに狙われて襲われているのだが。


 獣王は手に魔力を溜め、魔力砲を発射する。

 純粋な魔力のみを放つ魔力砲は、魔法のような属性はない。ただ己の魔力を一部に凝縮してそれを放つだけの、魔力を直接操作できるものならば簡単にできる技だ。

 だが威力は魔力量と操作の巧さに大きく関わってくる。


 魔力砲は一直線に私に進み、近距離だったために避けるまもなく衝突する。

 数百メートルほど飛ばされる。


 地面に着地すると同時に獣王は猛攻を仕掛ける。

 鋭い爪を出し風魔法を付与したり、火属性と雷属性を付与した二つの尾で攻撃してくる。

 それらを私は冷静に防ぐ。


「どうした! 防戦一方ではないか! やはり弱いではないか!」


 確かに奴は強い。

 素早い動きで相手を翻弄し、強力な魔法で相手に仕掛ける。

 ここにいた魔物とは一線を画す。


 だがガジーラと比べると少し見劣りする。

 ガジーラは、獣王ほどではないにしろその巨体からは考えられない素早さを持っており、皮膚が硬く攻撃が通りづらい。しかも火炎放射で全てを焼き尽くせるような火力を持っている。


 行ける。

 ガジーラを倒した時よりも日に日に強くなっている私なら、こいつに勝てる。

 防戦一方だったのはこいつの動きを見極めるため。すでにこいつの速さに目も慣れ動きを読めるようになってきた。


 さあ、反撃開始だ。

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