34ロリ 軽くあしらおう
大急ぎで戻った私は屋根から盗賊を見下ろす。
その数およそ百。冒険者たちが数を減らしたのだろう。だがその代償に多くの冒険者が殺された。
私は心の内に静かな怒りを覚える。
私の好きな街。
憧れていた街、そして冒険者。
それなりに楽しかった彼らとの日々。
たった五日。されど五日。
その日々を壊した。
私は屋根から飛び降りる。
盗賊たちが身構える。
「子供、だと?」
盗賊からそんな声が漏れる。
私はそんな声を無視してガリアに指示を出す。
「ガリアはここにいる人らを守っててくれ。たぶんほとんど私の余波かも知れんが、まあ頑張ってくれ」
「ガウッ!」
「いい返事だ。さて、と」
私は改めて盗賊に向き合う。
「クルシュ殿! そいつらはあのアルバル盗賊団だ! 頭は相当強い! グルドとゲルドもやられた! 気をつけてくれ!」
後ろから声がかけられる。いい年したおっさんだった。確かギルドの支部長だった、はずだ。一度だけ会ったことがある。
「了解だ」
「お前何者だ?」
盗賊の中で最も強そうな、獅子の仮面をつけた男から問われる。
「私か? 私はただの冒険者だ」
「ガキだろ」
「これでも十七はいっている」
「はっ、まあいい。俺様の前に立つことの意味、知ってんだろうなぁ」
男は槍を持ち戦闘態勢に入る。
「生憎知らんなぁ」
「なら、その身をもって教えてやる!」
「「「「お頭ぁやっちまってくださせぇ!!」」」」
「ぜぁ!」
「クルシュさん!」
男が目にも止まらぬ速さで槍を繰り出した、のだろうが私にしてみれば「他の冒険者より早いな」程度でゆっくり見えた。
生き残っていたリーネから悲鳴が聞こえる。だが心配はいらない。
私は槍の刃先を指で掴んだ。
当然、槍は止まる。ビクともさせない。
「なっ!?」
男だけでなく盗賊たちの顔が驚愕に染まる。
まさか止めれれると思っていなかったのだろう。
私は相手を挑発する。
「で、この状態からどうやって私に教えてくれるんだ?」
「貴様っ」
男は一度槍を引き、再び槍で攻撃する。今度は先ほどよりも早く、鋭く、殺気強い。おそらくこの男の本気だ。
「はぁ」
だが私の強さには遠く及ばない。
男の槍を指で一つ一つ弾く。男の攻撃は私にかすりもしない。
男は歯を食いしばり苦悶に満ちる。
「これだけは使いたくなかったが……」
男は独り言ちると魔力を刃先に集める。魔法だ。
「止めねぇのか?」
「ああ、それお前の本気なんだろ? 私にお前の本気を見せてくれ」
「はっ、舐めた口をっ、後悔するぜ」
魔力の奔流が男を中心に渦巻く。盗賊たちは皆ギョッとして男から離れていく。
(さすがに素手はきついか)
手で止めるとあらぬ方向に余波が飛んでしまう可能性があるため私は武器を手にする。
「刃折れの剣だと? ……どこまでも俺様を舐めやがってっ……」
「私は至って真面目なんだがなぁ」
「……死ねっ! 疾風! 煉獄炎斬!」
炎に包まれた槍が風によってさらに火力が増す。
そして空気を爆発させて威力と速度を高める。
思っていた以上の威力に私は目を見開く。
「ほぉ、これはすごいな」
それを私は――
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ふっ」
――刃折れの剣を上から下に下ろす。
すると小さな衝撃が走る。
男の槍の魔法は霧散し、槍が真っ二つに割れる。ついでに獅子の仮面も真っ二つに割れた。男の顔が露わになる。額、目、頬……傷が多い。それほどの死線を潜って来たのだろう。
だが私には手も足も出なかった。
衝撃によって男が少し吹き飛び、尻餅をつく。
「はっ……な……?」
男はまだ何が起きたのか理解できていないようだ。ポカンと口を開けている。
「お前まだまだ強くなれそうだな」
「えっ、俺様の槍は……」
「そこに真っ二つに割れてるぞ」
「は? そんな、俺様の最高必殺の攻撃が、あんな軽くあしらわれただけで……」
男はようやく理解できたようだ。
深く落ち込んでいる。
「俺様が冒険者時代に貯めた金を全額使って、オリハルコンとゴロボスの木で作らせた俺様の槍が……」
「なにっ!? そんなに高性能な槍だったのか!?」
オリハルコンといえば世界で一番硬い鉱石で知られ、ゴロボスの木は神樹を除いた全ての木の中で最も硬い木で知られている。
そんな高性能で高硬度の槍があっさりと真っ二つにされたとことに、男は反撃すらも忘れて落ち込む。
しかも冒険者時代に貯めた金で作らせたという。その落ち込み具合は相当なものだ。
「だが知らん」
「……あ」
私は刃折れの剣を横に薙ぎ男の命を刈り取る。
男の首が地面に転がり呆気なく死んだ。
「「「「お頭ぁっ!!」」」」
頭が手も足も出ず私にやられ残った盗賊たちは茫然自失している。
「ガリア」
ガウッ
私はガリアと共に残った盗賊たちの命も刈り取っていく。
「ひぃ!」
「に、逃げろ!」
「うわぁ!」
次々と仲間の命が消えていき我先にと逃げていく盗賊たち。
「情けない、情けないなぁ。さっきまでの威勢はどうした」
惨めに逃げ惑う盗賊たち。
程なくして盗賊たちは全滅した。広場や通りに転がる盗賊たちの死体。流れ出る大量の血。
「よし終わったぞ……あ、しまった」
私は後ろを振り返り避難していた人たちを見る。そしてそこで気がついた。そこにはまだ小さな子供もいると。
子供にはこれはあまりにも刺激的すぎた。が、
「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」」
割れんばかりの声が発せられる。
杞憂だったらしい。
もう死ぬことを覚悟していた彼らにとっては私は英雄のように見えていたのだろう。老人も子供も、老若男女問わず今生きていることを喜ぶ。そして冒険者たちは私のところに歩み寄り私を持ち上げる。
「おい、何を……」
「クルシュ様万歳ー! クルシュ様万歳ー!」
「おぉ!?」
すると私を胴上げし出した。
一般人たちも集まりだし私に感謝を伝える。
「ふむ、こういうのも悪くないな」
私はしばらくこの余韻に浸った。
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