19ロリ 世界に仇なすは月の魔女 前編

 夜空に浮かぶ満月。

 その満月から再び地上に光が降り注ぐ。今回のは森が更に燃えることはなくただ降り注いだだけだった。


「なっ」


 眩い光が柱より発せられ、視界が潰れる。

 光の柱から一人の女性が現れるのが微かに見える。


 光の柱が霧散する。後には一人の女性が空中に立っていた。

 その女性は、黒いショートヘアーでつり目、白い羽衣を着ていた。私が見た夢の中に出てきた女性、その人と似ていた。いや、その人なのだろう。


 彼女は私たちを見下ろす。そして口角を上げにっと微笑む。


「見つけたわ」


 気がつけば奴は私の目の前に来ていた。レヴァですら見切れていなかった。

 彼女は両手で私の顔に触れる。


「ふふ、あなたがそうなのね」


 意味のわからないことを言う。

 私は体が動かせないでいた。他の奴らは動けるようで彼女に構え警戒する。


「ッッ!?」


 いきなり殺気を感じる。

 私は動けない体を無理矢理動かし、彼女から離れる。

 すると彼女の手のひらから光の球が現れる。何かは分からない。しかし人を殺せるようなものだろう。私の本能があれは危険だと知らせる。


「あらら。逃げないで頂戴?」


 彼女はまた消えたかと思えば私の目の前にいる。

 私は全力で大きく退がる。


「お前は誰だ。何の用で来た」


 私は彼女に問う。


「私はミーズ。あなたを殺しに来たのよ」

「クルシュ様! 逃げてください!」

「くっ……」


 アルテナが大声で叫ぶ。私は彼女の言葉に従う。

 すると怒涛の攻撃が私を襲う。


「彼女は月の魔女! かつて大国を滅ぼしたと言われています! とにかく危険です!」


 アルテナはミーズという名から彼女こそが月の魔女だと悟り、私に警告する。


「それを早く言ってくれ! ぐっ」


 私は奴から止まらない攻撃を受けていた。しかもどれもが致死性の、私ですら死を覚悟する攻撃だ。

 それらを躱したり剣――アルテナがたまたま持っていた名匠の剣――で逸らす。

 上、下、右、左、前、後ろ、全方向から襲われる。


 少しして攻撃が病んだかと思えば奴は水色の剣を持ち斬撃を繰り出す。


(奴は魔法使いじゃないのか!?)


 さっきまで魔法で私を追い込んでいたのでてっきり魔法使いだと思っていたが剣術もいけるようだ。


(接近戦ならまだ私に分が……)


 しかし接近戦こそが苦戦だった。

 彼女は消えるように私の死角に移動し、もはや見えない斬撃を浴びせてくるのだ。感覚だけでなんとか躱せているものの、徐々に私は擦り傷をつくるようになっていた。

 レヴァは私を援護しようとするも、奴を目線で追うのがやっとであり、魔法を放てば私に当たってしまうため援護ができずにいた。


(ヤバイ!)


 レヴァとの戦いのような死ぬか死なないかの戦いではない。

 これは死ぬ戦いだ。もしかすれば生き残れるかもしれないが勝率は低い。


「ふぅ」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 奴は軽く息を吹いて攻撃の手を止める。

 私は四つん這いになって肩で息をする。


「貴方、まだ弱いのね」

「……」


 私は奴をキッと睨む。


「やっぱり分霊の差かしらね」

「分霊だと?」

「ああ、それも知らないのね。まあいいわ特別に教えてあげる」


 奴は剣をし《・》て《・》、空中に椅子でもあるのか空中に座る。


「分霊はその名の通り、魂を分けたもの。私が言っているのは、太陽神と月の神お分霊よ」

「……」

「その二柱の神はかつて大喧嘩をして相討ちとなった。死ぬ間際、己の魂を九つに分けて世界に散りばめ復活を試みた。九つに分けた魂をもう一度一つにすれば神が復活するわ」


 レヴァですら知り得なかったものを奴は話す。


「そしてその分霊は物、あるいは人に分けられたの。私と貴方みたいに、ね」

「なんだと?」

「分霊が人に分けられたら神の九等分の力が使えるわ。例えば、私の【月読之写身】や貴方の【天照之写身】のようにね。その隙があるのは神の分霊の一つである証拠よ」


 だから日属性を使えるのか。

 私は今のうちに回復をする。


「つまりは九等分された分霊がそのまんま力の強さになるのよ。私が持っているのはこの『水之剣』と――」


 奴は手に再び先ほどの剣を握る。


「――『静寂の羽衣』と――」


 奴は身につけている羽衣を指す。


「――これよ」

「なっ」


 奴は羽衣を捲りお腹を見せる。そこには白く綺麗な肌ではなく人の顔があった。


「これはソルジュ。元は人間よ。この子も【月読之写身】を持っていたから――吸収したわ」


 お腹の彼女は苦悶の顔をしていた。


「私は四つの分霊を持っているの。貴方はまだ貴方自身の一つしかないでしょう? それに今は夜。貴方には不利で、私には有利なの」


 奴は笑みを浮かべてそう話す。


「私の目的はこの世界を壊すこと。そのために月の神の分霊を集めて力を得るの。貴方は邪魔だから死んでもらうの。貴方を殺せば太陽神が復活する可能性は無くなるでしょう?」

「ぐっ!?」


 話し終えると再び魔法で攻撃される。

 私はなんとか傷は治っている。


「とりあえず、野次馬がいるから先に消しておくわね。だから貴方は一回遠くに行ってなさい」

「やめ……ろ……」


 奴のどこにそんな膂力があるのか、水之剣で横なぎに振るわれ私は木を折って吹き飛ぶ。

 そして奴はリリ達に歩み寄っていった。

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