39ロリ 帝都入り

 アルタイル帝国帝都ヴィンデン――そこは世界でも一、二位を争うほどの大都市である。

 そんな大都市は、道路は多くの人でごった返し、土地は建築物で埋まり――近年では城壁内では土地が足りなくなってきたため城壁をさらに外側に作り、都市を拡張しようとしているそうで、城壁の工事が進められている――、それらの様子は来た者を圧倒させる。

 一攫千金を夢見て冒険者が集まる。

 繁栄を夢見て商人が集まる。

 より詳しく研究をするために研究者や学者が集まる。

 住みごごちを求めて人々が集まる。


 ここは、希望と未来と、悪が集まる都市である!






 バズビオンとは比べ物にならないほどの高さの城壁。目測で三十メートルはあるだろう。しかしそれほどの高さであっても遠くから眺めることができた城はまるで帝都を睥睨しているかのよう。


 そしてこれまた頑丈そうな門が来訪者を迎える。

 門は冒険者用、一般人用、商人用と三つに分かれており長い列を作っていた。

 私たちはその列を素通りして直接門に向かう。


「帝国第三騎士団団長モール・ブライトネスだ! 盗賊団の遺体引き渡しより帰還した!」


 団長が先頭で馬車に乗りながら叫ぶ。

 門番たちは慌ただしく動き出し騎士団を出迎える準備を始める。

 綺麗に左右に並び、敬礼をする。列に並んでいた者たちもこちらに注目する。

 その中私は一際目立っていた。理由は言わずもがな。


 さて私たちは門番たちに迎えられ帝都へと入る。

 帝都の街並みは圧巻だった。大通りに面した建物は軒並み五階建てとなっている。大通りを行き交う人の数も相当なもので道路の左右の歩道は人で溢れかえっていた。道路の中央にある馬車道は商人が多く行き交っている。


 そんな大通りのど真ん中を私たちは堂々と行く。

 商人たちは騎士団の馬車を見かけるとすぐに馬車を左右に寄せ騎士団の通る道を作る。

 第三騎士団が盗賊の捕縛に向かったことは既に知られており英雄が如く歓声で出迎える。


「キャー! モール様ー!」

「今日もかっこいいーー!!」


 女性たちから団長のモールへ黄色い声がかけられる。騎士然とした団長モールは女性人気が高いようだ。


 そんな騎士たちより目立っているのは私である。

 白く大きな狼の上に偉そうに胡座をかいている幼女・・

 あの子は何者なんだと疑問の声が所々から上がる。その声に気づいたのか団長は声を上げて説明する。


「この方こそがアルバル盗賊団の頭を倒した者だ!」


 一時場は静寂に包まれ直ぐに爆音が如き声が上がる。「あの子が頭を倒したのか!?」「あの幼女すげぇ」「本当かよ……」「でもモール様が言うんだし」などと概ね予想通りの反応を示す。

 私はそれらを王が下界を睥睨するように、民衆を見下ろす。こうした方が後々舐められなくて済むと思いこうした。

 しかし、「あの子に踏みつけられたい」「私をいじめてー!」などと怪しい声が聞こえた。直ぐに「お前ロリコンか!?」「病院行くわよ。頭の」と友人らしき人に心配されていた。


 そんなこんなで大歓声の中を進み帝城を目指す。



「でけぇ」


 想像よりも遥かに巨大な城に私は驚嘆していた。

 近づくだけで威圧感を感じる。


「ちなみに隣のあそこが騎士舎だ」


 団長が指差したところを見るとこれまた大きな建物が建っていた。どうやらそこの騎士舎では全ての騎士が泊まる寮や、訓練施設、執務施設などが集まっているそうだ。

 私たちはそこの横を通って帝城に入城する。

 すでに伝達されていたのか門からはずらっと騎士が立ち並び、剣を掲げ敬礼をしている。

 あまりの威厳さに私はつい姿勢を正す。


 短いようで長かった通路を抜け私たちは歩いて帝城の中へ入る。ガリアはどうしようかと思ったが一応立役者なのでガリアにもついてきてもらった。


「それじゃあ謁見の準備をしてくるからここで待ってくれ。準備が終わったら呼びにくる」


 団長にそう言われとある一室に入れられる。

 これから女王との謁見だ。皇帝は今隣国の皇国に行っていて不在なため皇帝とは会えないらしいが私は特に気にしていない。

 というか謁見をするなんてついさっき聞いたぞ。


「お? これは」


 私は入られた部屋を見渡す。すると中央に置かれたテーブルに菓子が置かれているではないか。

 私はソファに腰掛け菓子に手を伸ばす。


「美味い! さすがは城の菓子だな」


 ガリアも食べたそうにしている。


「食べたいのか?」

「いや俺はいいぞ」

「……」


 ガリアはそうは言っているがよだれを垂らして菓子をガン見している。欲しいなら欲しいといえばいいのに。


「ほれ」

「いや俺は……」


 私はガリアの口元に菓子を出す。


「いらないのか。そうか、じゃあ私が……」

「っ!」


 私が食べようとすると我慢できなかったのか勢いよく食らいつく。


「美味いな!」

「だろぉ? ほらもっと食べろ」

「だが……俺が食べるとすぐになくなるのではないか?」

「ばっかお前、小さくなればいいだろ」

「なるほど!」


 自ら小さくなることに気付いていなかったガリアはすぐさま体を小さくし、菓子を食べていく。


 そうして私とガリアは菓子を頬張りながら謁見の準備が終わるのを待つのだった。

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