プロローグ (1~9P)

第1話

それは、校庭の端々に立ち並ぶように植えられた桜の木が、藍色に染まりかけている空によく映える美しい花を満開に咲かせていた、ある春の日の出来事だった。


「…マジかよ、イヤッホ~!」


 市立第二中学校の南校舎三階に位置する職員室のスライド式のドアが突然に、そして乱暴に開かれた。それと同時に、一人の若い長身の男が弾丸のように飛び出してきた。


 男は、中学校という場においてはまるで不釣り合いな薄汚れた作業着を着ていた。一度ドアの前でピタリと足を止めるが、ぐっと握り締めた両手には軍手がはめられたままだし、その顔は端正であっても煤と埃で所々黒ずんでいる。そうであるはずなのに、男の表情は心底からの喜びで満ちていた。


「…冴島!」


 男は肩越しに職員室の中を振り返って言った。


「じゃあよ、俺がこれから皆に話してきてやるよ!明日は盛大に盛り上がろうぜ!」


 ガッツポーズを決めてみせると、男は子供のような大きなはしゃぎ声を出しながら廊下の奥へと駆け去っていってしまった。


 そんな男の後ろ姿を職員室の中から見送る格好となっていた同学校教諭・冴島は、呆れ顔で溜め息をついた。

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