第28話
やがて良は、ある病室の前に辿り着いた。病室は相部屋だったが、そのプレートには『波根川美希』という名前一つしかない。良はその病室のドアをやや乱暴に開けた。
病室の奥のベッドの上では、右足をギプスで固定されている美希の姿があった。シーツには何冊かの絵本が散らばり、そのうちの一冊を手にして読んでいたようだが、良がドアを開けた音にびくりと身を震わせ、ちらりと彼を見た。良はそんな美希を冷ややかな目で見つめ返していた。
「りょ、良…ニイちゃん」
美希がゆっくりと口を開いた。
「さな、さなちゃ…おっき、した?」
「起きねえよ…」
良はすたすたとベッドに近寄り、美希を見下ろした。美希から見ても、良が不機嫌であるという事はすぐに分かった。美希は良から視線を外し、持っていた絵本を再び読み始めた。
「何、してんだよ…」
良がぼそりとした声で尋ねる。美希は絵本から目を離さずに答えた。
「こ、ここ、ここは暇。だ、から…絵本、読む、してる」
「暇…?」
「あ、あと、さなちゃ…おっきし、たら、これ読んであげる。だ、だから、今、今から練習…です!」
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