第29話
そう言って再び絵本を読む事に夢中になり始めた美希に、良は初めて怒りを感じた。一気に立ち上った怒りが理不尽であるという事にも気付かず、良は美希が読んでいた絵本を奪って床に叩き付けると、「ふざけんな!」と怒鳴った。
「いい加減にしろよ、このバカ!」
「……っ!」
美希の身が竦んだ。これまで自分の事をひどく言う人達には何度も出会ってきたし、何度も同じような言葉を言われ続けてきたが、良に――自分の大好きなニイちゃんに「バカ」と言われたのは、これが初めてだったのだ。
「りょ…、ニイちゃん?」
小さな声で良を呼んだ。いつもなら優しく笑いながら、「何だよ、美希?」と言ってくれるのを美希は記憶している。しかし今、目の前にいる良は決してそんなふうに言ってはくれなかった。
「…何で、佐奈江なんだよ」
「…ふぇ…?」
「分かってんのか?佐奈江は起きねえんだ、植物状態なんだよ!自分じゃ、飯を食う事も息をする事もできねえんだ!それなのに、何で一緒に撥ねられたお前は足のヒビだけで済んだんだよ!」
美希の顔が悲しみで歪み始めた。一気に捲し立てられた為、良が何を言っているのかあまりよく理解できない。ただ分かるのは、良が怒鳴っているという事。自分に対して怒っているという事だけだった。
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