第31話

頭を抱え込むようにして座った良は、この二日間の途切れ途切れの記憶から刑事と話した数少ない会話の内容を必死で思い出そうとしていた。今、一番思い出したい事は、佐奈江と美希の事故には目撃者がいたと聞かされた記憶だった。


 目撃者の話では、美希ではなく、佐奈江の方が信号無視して飛び出したという事だった。


 そして佐奈江が車に撥ねられる直前、美希は佐奈江の名を叫びながら後を追いかけるように飛び出してきたという。


 …これが事実ならば、美希は佐奈江を助けようとした事になる。


「…んな事、ありえねえ!」


 良は首を大きく横に振った。


 そうだ、そんなはずはない。


 自分は佐奈江と美希、二人を小さい頃から見てきたのだ。佐奈江は小さい頃からしっかり者で、俺の言い付けをきちんと守る本当によくできた妹だ。そのまま大きくなったような佐奈江が、信号無視など決してありえない…。


 美希は美希であの通りだから、なかなか他人と同じという訳にもいかず、いつも俺か佐奈江がいないとダメな奴だ。「あの時」のような行動をそう何度も取れるような器用な奴でもなくて。だから…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る