第21話
たまに周囲から美希の事をからかわれたりもするが、その温かさが心地良いと感じている二人には何でもなかった。それほど、二人の心は強く結ばれていた。
†
「…あっ!」
もう少しでアパートに辿り着こうかという時に、美希が突然小さな声を上げた。何かと思って佐奈江がゆっくり振り返ると、美希は空いている方の片手で自分の身体を調べるようにして撫でてから、元気のない声で言った。
「…な、ない。ないです、も、持ってな、い…」
「どうしたの、美希?」
「パ、パジ、パジャ…マに、パンツ。み、美希、持ってくる。して、な…」
つられて佐奈江も「あっ…」と声を出した。
喜びのあまり、つい勢いで誘ってしまったが、よく考えてみれば工場からそのまま迎えに来てくれた美希が、替えの服や下着などを持ってきている訳がなかった。
美希には自分の中で培ってきた独特の習慣や癖がある。その一つに、「自分の持ち物を大事にする」というものがあった。
どんなに小さな物でも自分の物でなければ気が済まないし、それらのどこかには必ず名前を書き込んでいる。例えどのような場合でも、他人の物を借りるという事に我慢ができないのだ。
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