第22話
美希はその場に立ち止まった。ちらりと佐奈江を上目使いで見て、何だか言いにくそうにそわそわとし始める。
「…いいよ?」
そんな美希に、佐奈江はにっこりとした笑みを浮かべる。
「着替え、一緒に取りに戻ろう?」
「美希のおう、ちは…と、とお、遠くぅ」
「ちょっと走ればすぐに着くって」
佐奈江は苦笑した。
遠くといっても、美希が一人暮らししているアパートは、彼女が勤めている麺工場のすぐ向かいに位置しているので、元来た道を引き返すだけで済むし、大した距離でもない。美希一人だけなら様々な事に興味が向いてしまって時間がかかってしまうだろうが、二人で引き返せば何でもないのだ。
「競争しようか?」
言うや否や、佐奈江は美希の手をより強く握って小走りに駆け出した。少しの衝撃に美希はぎょっと驚いた顔を見せるが、爽やかに頬を通り過ぎていく小さな空気の流れにすぐ心地よさそうに笑った。歩くでもなく、走るでもない速さで、二人は元来た道を東に進んだ。
やがて二人は、麺工場の前にある二車線道路まで辿り着いた。横断歩道の向こうに麺工場の建物と塀が見え、ここを渡って塀の角を曲がれば目的地はそこであった。
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