第23話

佐奈江はちらりと腕時計を見た。午後五時を少し回っている。良の夜のバイトは、確か八時からだったはず。美希と一緒にすごいごちそうを作って、思い切り脅かしてやろう…。


 佐奈江が悪戯を考えている子供のように笑っている中、美希は二車線道路をじっと見ていた。


 珍しく、車の流れが疎らである。いつもなら絶えず車が通っているはずなのにと、美希はいつもの風景がそこにない事に首を傾げていた。


 それに気付いていない佐奈江は、適当に左右を確認して横断歩道を渡ろうとしている。繋いだ手を引っ張られた美希は、慌てて歩行者用の信号を見た。まだ赤だった。


「さ、さなちゃ…ダ、メ。ダ~メ!」


 美希は両足を踏ん張らせ、佐奈江に声をかけた。


「どうしたの?」

「あ、あ、赤、赤です!し、し、しんご…は、まだ赤」


 空いている手で赤信号を指差す美希に佐奈江は「あぁ…」と声を出すが、興奮していた彼女にいつもは見せている慎重さが欠落していた。


「大丈夫よ、美希。車来ないし、お巡りさんもいないから、ちょっとくらい平気平気」

「ダァメ!し、信号、守り、ま…しょうって、先生言ったぁ…」

「美希ぃ~…」

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