第24話

こうなったら、美希が頑固に言い通す事を佐奈江はよく知っていた。そもそも、自分が悪い事をしようとしているのだ。美希がダメと言うのは当然である。佐奈江が美希の言う事に従おうと思い直した時であった。


「あっ、波根川さん、なんだよ。波根、川さん…」


 横断歩道の向こうから、美希の名前を呼ぶ声が聞こえ、二人はそちらを振り返った。


 そこには先ほど、美希に帰りの時間を教えてくれた麺工場の青年がニコニコとした笑顔で二人に手を振っていた。小刻みに頭を揺らし、言葉を詰まらせて話す青年の様子を見て、佐奈江は美希に聞いてみた。


「一緒に働いている人?」


 美希はすぐに頷いた。


「お、同、じおうちに、一緒…いたの。な、名前は、充、君…」

「へぇ、充君かぁ」


 佐奈江は美希に異性の仲良しが良以外にいたという事実を知って、さらに舞い上がった。十代特有の好奇心が、彼女の注意力をさらに散らせてしまった。


「ちゃんと紹介してよ、美希。何なら、彼もごはんに呼んじゃう?」


 佐奈江は美希の手を離し、横断歩道の上を駆け出した。信号はまだ赤だった。


「さなちゃ…!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る