第25話

美希が声を出し、「何?」と佐奈江が彼女を振り返った時だった。道路が混んでいないのをいい事に、一台の乗用車が猛スピードで佐奈江に向かってきたのは。


 次の瞬間、何が起こったのか、横断歩道の向こうにいた青年には分からなかった。


 ただ、鈍い衝撃音が重なったのとほぼ同時に、二人の女の子が道路に倒れた。


 割れてしまったのか、アスファルトには乗用車のライトの欠片が散らばり、その下を赤い液体が這うように広がっていく。それが女の子達の血であるという事に気付くまで、青年には時間がかかった。


 青年はパニックに陥り、声にならない叫びを発し始めた…。



 仙崎 良は信じられないという表情を浮かべたまま、変わり果てた妹の姿を見ていた。


 道路補修のバイトが終わって、一度アパートに帰宅したのは二日前の午後六時過ぎだった。


 いつもなら妹の佐奈江はとっくに帰ってきていて、夕食の準備をしているはずだった。それなのに、その日に限って部屋の中には誰もいず、帰ってきた様子もなかった。


 美希を泊まらせるつもりでいるのだから、当然彼女と一緒にいるだろうが、寄り道をしているにしても遅すぎだ。何かあったのだろうかと首を傾げていた時、ズボンの中の携帯電話が再びバイブレーションを起こした。


 佐奈江に違いないと良は電話に出たが、病院の者だと名乗る聞き覚えのない男の声から佐奈江と美希の事故の話を聞かされた時、頭の中が一瞬で真っ白になった。

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