第26話

それから二日間の事は、あまりよく覚えていない。食事も睡眠も満足にとっていないはずなのに、不思議と空腹感や眠気がない。ただぼんやりと、大きな窓ガラスの向こうの部屋――ICUのベッドに横たわる佐奈江の姿を眺めていた。


 ベッドの上で眠る佐奈江の姿は、とても痛々しかった。


 身体の至る所に包帯を巻かれ、その上を無数の管や点滴がまるで彼女を縛るかのように貼り付いている。頬や額には擦り傷ができ、切り開かれた喉元にはポンプのような器械が取り付けられていた。


 やがて一人の看護師が横たわる佐奈江に近付き、彼女の鼻に細いチューブを差し込み始めた。確か先ほどの医者の説明の中に、これからは鼻からも栄養を流し込むような事を言ってたっけ…と、良ははっきりとしない意識で思い出していた。


「仙崎さん、ですか…?」


 ふいに声をかけられ、良は顔をそちらに向けた。そこには一人の中年男性がやや緊張した面持ちで立っており、彼はスーツの内ポケットから警察手帳を取り出して、自分が刑事であるという事を示した。良が言葉もなく会釈すると、刑事は声を低くして言った。

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