第20話

表グラフや細かい活字の羅列がびっしりとあって、美希にはそれがどういう物なのか分からなかったが、ただ一つ、その書類に赤ペンで大きく描かれた花マルのマークの意味だけははっきりと分かった。


「さなちゃ、ん…は、はな、花マル、もら…たの?」


 早くも嬉しそうに尋ねる美希に、佐奈江は苦笑いを浮かべながらも「そうだよ」と答えた。美希に分かりやすいようにと思い、自分で描いた花マルだった。


「こんな大きな花マルもらったから、お兄ちゃんも喜んでくれた。だから美希、明日の晩まで私と一緒にごはん食べたり、遊んだりしようね♪」

「…ほんと?」


 佐奈江が大きく頷く。すると美希は、本当に嬉しそうにぎゅっと佐奈江に抱きついた。佐奈江も美希の背中を優しく撫で、自分も嬉しいという事を伝えてやった。


 アパートに帰る道の中、佐奈江と美希はぎゅっと手を繋いで歩いていた。昔から二人で道を歩く時はいつもそうしているので、今更恥ずかしいなどとは思わないし、美希の事を第一に考えると、佐奈江にとってはむしろ当たり前の行動となっている。そして何より、互いが互いの手を温かいと感じている。

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