第19話

場所を間違えたのかと、美希は一度入り口から離れて、学習塾の屋上に掲げられている横向きの看板を見上げた。


 難しい漢字ばかりで何と書いてあるのか全く読めないが、一番左端にはその学習塾のロゴマークがある。その形だけははっきり覚えていたので、美希はほっと一安心した。


「…み~きっ!」


 そんな美希の背後から彼女を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある声に美希の表情はぱあっと明るくなり、勢い良く振り返る。


「一時間の遅刻だよ~?」


 美希の視線の先には、自分の腕時計を指差しながら苦笑いを浮かべている仙崎佐奈江の姿があった。佐奈江は小走りで駆け寄ると、背の低い美希の頭を軽く叩くように撫でた。


「何かあったのかなって思ったけど、仕事終わらなかったの?」


 佐奈江がゆっくりとした口調で問うと、美希はぶんぶんと大きく首を横に振った。


「お、お空のプカプカ、雲…と、歩いている人も、見た…」

「嬉しかった?」

「ん…!」

「私も嬉しい事あったんだよ?」


 そう言うと、佐奈江は肩に掛けていた大きめのカバンから細長い封筒を取り出し、中身の書類を広げて美希に見せてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る