第2話

あいつの事だ。おそらく、いや十中八九、喜び勇んで仲間達に話して回るだろう。いらぬ尾ヒレを付け加えて話しやしないかと考えた所で軽い頭痛を覚え、冴島は片手で額を支えた。


「…冴島先生?」


 呼ばれた声にふと気付くと、隣の席の若い女性教諭が不思議そうな顔で冴島を見つめていた。


「今のは、確か冴島先生のクラスで夜間学級の…仙崎さん、ですよね?」

「ええ、まあ…」


 苦笑を漏らす冴島に、女性教諭の興味めいた疑問はますます深くなる。


「何かあったんですか?遅刻の注意を受けていたにしては、随分とはしゃいでましたけど…」

「青井の時と、同じパターンですよ。明日、うちのクラスに見学生が来るんです。その事を伝えただけで、案の定…。全く、仕方のない奴です」


 冴島は、ちらりと自分の左腕に付けている腕時計を見遣る。ちょうど秒針が午後六時三十分を指し示したと同時に、休憩時間終了のチャイムが職員室のドアの上に設置されているスピーカーから流れ出した。


「さてと」


 冴島は重い腰を持ち上げ、教科書の束をトントンと机に叩いてから持ち直すと、再び女性教諭に苦笑を浮かべた顔を見せる。

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