第3話

「ああいう子供のような所さえ見逃せば、なかなか男気のある奴ですからね。今度の見学生も、あいつや他の連中を気に入ってくれるといいんですが…」

「大丈夫ですよ、きっと」


 女性教諭が、にっこりと笑った。


「だって、あの一年五組ですからね」



 市立第二中学校は何の変哲もない、至って普通の造りの学校である。毎年、何か特別な行事や催しを行う訳でもなければ、有名人の母校という訳でもない。


 ただ一つだけ変わった特徴があるとすれば、昼間、制服を着た十三歳から十五歳までの生徒(総数七百四十一名)が陽が暮れた頃までに帰宅すると、今度は全く年齢の異なった私服の生徒(総数四十五名)がこの学校の門をくぐるという事――すなわち、この市立第二中学校は、今現在、日本国内でもまだ数県しか実現がなされていない『夜間中学学級制度』を執り行っている希少な学校であるのだ。


 夜間中学に通う生徒の年齢、境遇は実に様々であり、『いつでも誰でも入学できる』という方針にすがってくるかのように入学希望者は決して後を絶たない。

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