第4話

その一人が翌日自分のクラスを見学に来るという事を担任の冴島から聞かされた夜間学級一年五組のクラス委員長・仙崎 良は、喜びが異常なほど大きく、南校舎と北校舎を繋ぐ渡り廊下を、疎らに行き交う生徒達の間を一気に駆け抜け、北校舎三階の一番端にある自分の教室に向かっていた。もうすぐ二時限目が始まる。皆、教室にいるはずだ…。


「…全員、注目~!」


 そう言い放った良の視界の先には、いつもと変わらない教室の様子が広がっていた。


 教室の中央付近の席では、年齢の異なる三人の女性が楽しそうに雑談をしていて、明るい笑顔を見せている。そして窓際の席では、一人の少年が相変わらず忙しそうにノートパソコンのキーボードを叩いていた。


 先ほどの自分の声が聞こえていなかったようなので、少しだけむっとしながらも良はもう一度大声を出した。


「注目注目!全員、俺様に注目~!」


 教室中に響き渡った良の大声に、その場にいた全員がびくんと身を強張らせた。何が起こったかと彼らがそうっと振り返ってみる中、良はすたすたと教壇に上がり、黒板に備え付けられている白いチョークのうちの一本を手にして楽しげに弄び始めた。

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