第5話

「…い、一体何の騒ぎだい?」


 六十は過ぎているかと思われる初老の女性が、跳ねる動悸を抑えるかのように胸元に軽く手を添えながら言った。


「良!あんた、私の寿命を縮ませる気かい!死ぬかと思ったじゃないか!」

「うるせぇな、ババア。あんたはあと五十年は死なねえよ、俺が保証してやるって…」


 そう言いながら初老の女性を振り返った良の顔は、叱られているにも関わらずニコニコと笑っている。それを見た彼女はこれまでの良との付き合いから、また何かあったに違いないと察したと同時に、はあっと深い溜め息をついた。


「カ、カナエおばあさん、大丈夫ですか?」


 カナエと呼ばれた初老の女性の側に立っていた少女の一人が、心配そうにその顔を覗き込んだ。肩より伸びた細い茶色の髪をしており、そっとカナエの腕を取ると静かに脈拍を計る。


「大丈夫じゃよ、亜利寿ちゃん」


 カナエが遠慮がちに、少女から腕を引いた。


「ちょっち、驚いただけじゃから…」

「なら、いいんですけど…良君!」


 亜利寿と呼ばれた茶髪の少女が、きっと良を見据えた。

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