第46話

「さ、な…ちゃ…」


 美希は良に気付かず、アパートに向かって声を出していた。


「さ、さな、ちゃ…ん。あ、そぼ~…」


 良は大きく息を飲んだ。この光景を、良は過去に一度見た事があった。




 あれは、良と佐奈江が両親を失ってから、数か月経った頃の事だった。佐奈江が突然、学校に行かなくなったのだ。


 良とは対照的に、佐奈江には仲の良い友人がたくさんいるのでイジメがあったとは考えにくいし、その他に悩みがあるようにも見えなかった。ただ「学校には行かない」「家で勉強するから」「家にいたい」、それだけしか言わず、何日もアパートの部屋から出てこなかった。


 良は何度も佐奈江を説得した。「学校に行け!」「友達が待ってるだろ?」「俺や担任の先生を困らせるな…」など、時に厳しく、時に優しく諭そうとしたが、佐奈江は頑として聞き入れなかった。


 そんな数日が過ぎた、ある日の夕方だった。その日も夜のバイトがある良は簡単な夕食をこしらえ、卓袱台の上でふてくされたように伏せている佐奈江に声をかけた。

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